Perfumeと修士論文と私
Perfumeをちゃんと見て聴きだしたのは去年の連休で、決して古参のファンではないけれど、以来ずっとはまっている。曲を聴けば聴くほど、Youtubeに上がっているライブ映像を見れば見るほど、この子たちはなんていいんだろう、とツボを押されまくりだった。
何より有難かったのは、その頃もがいていた修士論文の構想発表会用の資料づくりのいいBGMになってくれた。いや、単なるBGMではなくて、意表をついたりしみじみ沁みたりする歌詞のフレーズや、気持ちいい音の重なり、美しいメロディラインや彼女たちの甘くキュートなボーカル、パントマイムのようなそれでいて難易度のかなり高いダンスなど、楽曲のすべての要素に励まされて、何とか研究の骨子を固めて発表資料にまとめることができた。PCのキーボードを打つのにちょうどいいリズムで、何と言うか、私の思考速度にちょうどいい心地よいベースが刻まれるのだ。これは本当に助かった。研究初心者の私は、ひたすら心理学の文献とにらめっこしてああでもないこうでもないと考えているとどうしても煮詰まってきてしまうのだが、そこにいい具合に割り込んでくれ、ペースメーカーになってくれるのだ。
これはその後の修論執筆課程でも同様で、質問紙のアンケート回答をExcelにひたすら手入力する時、統計ソフトのSPSSで相関係数算出やらt検定やら分散分析やら因子分析やら重回帰分析やらをひとつひとつ地道にやってる時、その結果を論文という形にまとめる時、耳にはPerfumeの音楽が入っていることが一番多かった。時には気分転換になり、時には励まされ、何より美しい音楽の持つsmoothingな力に焦りや怠けなど鎮められたのが有難かった。
なぜこんなに音楽の力が必要だったのか。それは、修士論文の執筆が想像を遥かに超える孤独な作業だったからだ。
もちろん指導教官の先生はいるし、大学院の仲間たちだっている。ただ統計ソフトを自分で買った私は執筆のために登校することはなく、基本的に自宅で一人でPCに向かってひたすら考え書く日々だったし、そういう物理的な面だけでなく、「やるのは自分だけ」なのだということに遅まきながら気づいた時には秋もすっかり深まっていた。考えてみれば当然のことなのだが、自分の研究は自分でしかわからないし、自分で書くしかない。アドバイスをもらっても、実際にそれを形にするのはあくまで私一人、なのだ。加えて初めての論文なので、そのマイルストーンがよくわからない。先生と相談しながらスケジュールを切ってやるけれど、ミスや抜けなどが見つかると思いがけない形で手戻りが生じてなかなか予定通りに行かない。こうなるといつまでにどこまでできればOKなのか、さっぱりわからなくなってしまう。
自分がくじけたりあきらめたりしたらそれで終わり。崖っぷちを細いペンライトで照らされて走り抜けているような心細さと不安を常に抱えながらの日々だった。
こんな状況の中、特に印象深い曲になったのは、11月に発売されたシングル「Dream Fighter」。今までにはないストレートな応援歌の歌詞に相当励まされた。
「もう書けないかも」「完成できないかも」「しょうもない論文しかできないかも」と弱気になる自分に「今苦しいのは高いところをめざしてるから」「まだできる、まだあきらめないで」と力を与えてくれる。
年末年始で第一稿を何とかひとまず書いて、先生に送って見てもらったはいいけれど、「論文の体をなしてない」同然の評価と具体的な山のような修正指示が来たその日に熱を出して寝込んだのが提出12日前。その週は出社できず、寝て少々体調が回復したら起きて書き、またふらついてきたら布団に戻る、の繰り返し。SPSSとExcelとWordと格闘し、参考文献に付箋をつけまくり、見る、計算する、貼る、書くを繰り返してどうにか書き上げ、「提出できる最終型で持参する」という約束のゼミの日を迎えた。依然として体調が悪く咳がひどいから電車はあきらめてタクシーで学校に行き先生に見てもらう。先生が全部に目を通したあと「うん、カンペキ!気になるところ全然ないですよ。これで完成です」と晴れやかに言われた時は、「ええええっっっ!本当ですか!」と心底驚いた。あんなにダメ出しされたのに。肉体的にも精神的にも苦しくて苦しくてたまらない中、何とかがんばって書き続けた甲斐があった、と体中から力が抜けてへなへなと崩れ落ちて泣きそうになった。
翌週にかけて誤字脱字を見直し、提出日にKINKOSでコピーを取って、所定のファイルに3部作成して教務係に提出し、無事受理された。のはいいが、これで終わりではない。一週間後に最後の関門「口述試験」がある。コースの生徒と教員の前で7分で研究内容を発表し、副査二人の先生からの5分間の質疑にきっちり答えないといけない。試験当日、発表順を待つ間の緊張の中、脳内BGMは「Dream Fighter」だった。最高を求めてがんばる、あきらめない、前を向いて行って来い、そう背中を押してくれるこの曲に力をもらった。
幸い質疑も無事済ませることができ、その後の審査でも特に問題なしという結果だったようで、少々の加筆修正をして再提出すれば大丈夫、ということになった。それを聞いて私の修士論文との孤独な闘いはひとまず実質区切りをつけたのだった。
だから私は断言する。私の修論にはPerfumeが欠かせなかった、と。彼女たちに心からの感謝を込めて。
きっと代々木では泣いてしまうだろう。彼女たちの長い長い不遇の時代には及ばないけれど、精神的にとてもしんどい時期を支えてくれた大事な人達だもの。
そしてひとしきり泣いたあと、精一杯ライブを楽しんで「ありがとう」を伝えたい。それが唯一私にできることだから。
関連エントリ:
突然「Perfume」にはまる(2008/5/27)
CD 「love the world」 Perfume(2008/7/12)
MUSIC 「願い」 Perfume(2008/12/14)
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コメント
はじめまして。
大学院ご卒業(修了)おめでとうございます。論文を書きながら心がおれそうになるとき、音楽に力をもらえるときがありますよね。
投稿: ぶん | 2009/05/08 14:01
>ぶんさん
はじめまして。コメントをいただきありがとうございます。
論文を書くのってこんなにハードなこととは正直思いませんでした。おっしゃる通り、しんどくてたまらない時に音楽からこんなにも力をもらえるんだなあと驚いています。
投稿: くりおね | 2009/05/10 13:19