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2016/10/15

PLAY 「るつぼ」 @シアターコクーン

Crusibleシアターコクーンでアーサー・ミラーの戯曲を上演した「るつぼ」を観てきた。

※以下内容に触れていますので、未見の方はご注意を

公式サイトの内容紹介より。

17世紀、マサチューセッツ州セイラム。ある晩、戒律で禁じられた魔術的な「踊り」を踊る少女たちが森の中で目撃される。その中の一人は原因不明の昏睡状態に。これは魔法の力か? 悪魔の呪いか? セイラムを不穏な噂が駆け巡るが、少女アビゲイル(黒木 華)は「ただ踊っていただけ」と主張する。彼女の真の目的は農夫プロクター(堤 真一)の妻エリザベス(松雪泰子)を呪い殺すことにあった。雇い人だったアビゲイルと一夜の過ちを犯したプロクターは罪の意識に苛まれ、以後、彼女を拒絶していたのだ。プロクターに執着するアビゲイルは、敬虔なエリザベスを〈魔女〉として告発。アビゲイルに煽られ、周囲の少女たちも悪魔に取り憑かれたように次々と〈魔女〉を告発していく。大人たちの欲と思惑もからみ合い、魔女裁判は告発合戦のごとく異様な様相を呈していった。悪魔祓いのためセイラムに呼ばれた牧師ヘイル(溝端淳平)は、自身が信じる正義のありかが揺らぎ始め─。

ここに注目!

物語の鍵を握るのは少女たちの集団心理。ジョナサン・マンビィと振付の黒田育世によるオーディションで選ばれた、岸井ゆきの、皆本麻帆らフレッシュな女優陣にも注目だ。少女ならではの震える感性と危うい純粋さが、プロクター夫妻を追い詰めていく。彼女たちは果たして正気か、狂気か。固唾をのんでその行方を見守りたい。

アーサー・ミラーは「セールスマンの死」で有名なアメリカの戯曲家。一時期マリリン・モンローと結婚していたことでも知られている。
その彼が17世紀半ばにマサチューセッツ州のセイラムという町で実際にあった魔女裁判事件をもとに書いた作品がこの「るつぼ」(原題:The Crusible)。第二次大戦後彼を巻き込んだアメリカの「赤狩り」への批判を重ねているともいわれている。

大学時代英文科の学生だった私がたまたま受講した集中講義で、都立大の先生が取り上げたテキストがこの「The Crusible」だった。暴走する「正義」の恐ろしさ、妻を魔女に仕立てても相手の男を手に入れたい娘の恋心の哀しさと一途さの持つ恐ろしさなどについてレポートを書き、先生に高評価をいただいたことを覚えている。

そんな「るつぼ」を堤真一と黒木華で上演すると知った。映画「幕が上がる」で一瞬で役に没頭するその演技にしびれた黒木華目当てに行ったのだが、3時間15分の長丁場をぎっしりずっしりと構成されたよい舞台だった。

「欲望という名の電車」のスタンリーを彷彿とさせる野卑さも少し匂わせつつ、生命力にあふれた力強いジョンを演じる堤真一、純粋な顔と恋敵を陥れようとする魔性の顔の2面を、これはジョンも落ちるよなと納得するような色気をたたえてアビゲイルを演じる黒木華、どちらも甲乙付けがたい演技ぶりだった。憎まれ役の判事を演じる小野武彦の安定感が軸となる。また、「真田丸」で秀次の娘・たかを演じていた岸井ゆきのがキーパーソンとなる少女メアリー役で出ていて、こちらでも引き込まれる演技をしていた。

年をとったせいか、今観て感じるのは暴走する「正義」の恐ろしさが圧倒的に大きかった。責めていいものができたときのバッシングがすさまじい近年の世の空気が影響しているのかもしれない。

この話は決してただの「昔の悲惨な事件」ではない。魔女を告発しようとするアビゲイルはすぐそこに、あなたの中にも、私の中にもいるのだ。

参考リンク:
Bunkamura『るつぼ』10/07-30 Bunkamuraシアターコクーン(しのぶの演劇レビュー)

法務サポートに関わった福井健策さんのツイート


演出家・ジョナサン・マンビィのインタビュー記事(英文)
Munby’s ‘Crucible’ speaks to societies built on fear(The Japan Times)

In terms of the play itself, Munby believes “The Crucible” reflects the times we are living in — that it’s a play about fear.

“I think we as a people, not just in Britain but across the world, live in fear — fear of terrorism, of economics, of the natural world and of politicians who make extraordinary decisions that we don’t believe in.

“I think this atmosphere of fear is something the politicians also use to control us.

“When I look at ‘The Crucible,’ it is an entire society built on fear. The people are defined by the thing they fear most. So I think it is absolutely a play for our times.

“I am also interested in how this connects with Japanese culture,” he added — noting how a family’s standing is very important here, just as it is key to this play.

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