MOVIE 「バベットの晩餐会」
1987年に公開され、名作の誉れ高い「バベットの晩餐会」がデジタルリマスター版として再公開されることになり、公開当時見逃してしまった私もようやく恵比寿ガーデンシネマで観てきました。
※内容に触れているため、未見の方はご注意ください
公式サイトにもあるあらすじは下記の通りです。
19世紀後半、デンマークの小さな漁村で牧師だった父の遺志を継ぎ慎ましく生きる初老の姉妹。ある日、彼女たちのもとにひとりのフランス人女性がやってくる。パリ市の動乱(パリ・コミューン)で家族を失ったバベッ ト。彼女はメイドとして姉妹に仕えるが、ある日偶然買った宝くじで大金を手にする。かつてパリのレストランの名シェフだったバベットは、賞金を使って豪華なディナーを計画するが……。
予告編はこちら。
映画の紹介のされ方が、後半の「バベットがプレゼントする豪華晩餐会」に集中していた(ような記憶がある)ため、そういう話かと思っていましたが(いやもちろんメインは晩餐会とその豪華料理なのですが)、見てみると、前半部分でかなりの労力を割いて「牧師だった父の遺志を継ぎ慎ましく生きる初老の姉妹」について描かれていました。もっと詳しく言うと、「初老の姉妹が若かりし頃断念してきた人生」について描かれていたのです。厳格な牧師だった父は彼女たちに自分の両腕となることを望み、たぐいまれなる美貌を持つ姉妹は自分たちへの期待と思いを寄せる男性との狭間に立って、父との生活を変わらず送ることを選ぶ。見えない未来への恐れを超えられなかったのでしょう。彼女たちを責めることはできませんし、その選択の結果バベットとの巡り合いが生まれるので、何もかもが悪かった訳でもありません。ただ、ここでの禁欲的とさえ言える質素で信仰心に満ちた彼女たちの生活状況を見る側としてしっかりと刻み込んでおくことで、後半のお話をさらに楽しめるのでは、と思いました。
神への祈りを共有する場だったはずの集会が、年齢を重ねて短気で我慢がきかなくなった老人たちの罵り合いの場となり、姉妹ですらコントロール不能になってしまった頃、バベットに届いたのがパリの宝くじ当選の報でした。折から姉妹の父である牧師の生誕100年を祝おうとしていた頃であり、バベットはそのお金を使ってフランス料理を供する晩餐会をさせてほしいと申し出ます。フランス料理なんて贅沢は、と断る姉妹に、「私がこれまで何かお願いしたことがありましたか?」と迫るバベット。パリから不慣れな土地にやってきて召使として14年、土地独特の質素な食材と調理法から少しでも美味しくよりお金のかからない料理をし続けてきたバベットが、一気に本領を発揮する時が来たのです。
そこからの展開は姉妹には悪夢に近かったことでしょう(実際姉は悪夢をみます)。8日の休みを取り、パリで調達してきた材料を運ぶバベットの手には生きたウズラの入った籠。荷台にはウミガメ。姉妹が見たこともない様々なものが次々と台所に積まれていきます。姉は招待者たちに「とんでもないことになってしまった。何を食べさせられるのかわからない」と恐れながら詫び、招待者たちは「料理を味わいません」「料理の話題は口にしません。話題は神のことのみ」と誓い合うことに。
姉に心を寄せつつ去って行った若者が将軍となって招待者に追加され、12名のお客様に向けての「バベットの晩餐会」が始まります。
ここからはぜひ作品を見ていただきたいのですが、どんなに料理について語るまい、考えまいとしても、その極上の味の前には無力になっている村人たちの表情がたまりません。そして食通の将軍のしぐさを真似て料理を味わい尽くそうとしている様子がとても微笑ましくて。水を飲んだあと、もう一度赤ワインに手を伸ばし、飲んでから「やっぱりこっちがずっとおいしいわあ」と言うような笑顔を浮かべる女性のチャーミングなこと。
出された料理のメニューが、Food Watch Japanの記事にありました。
「バベットの晩餐会」のフランス料理とワイン(Food Watch Japan)
パリ滞在経験がある食通の彼が、バベットが腕によりをかけて作った一世一代の料理の解説役となる。そのメニューは以下のようなものである。
1. ウミガメのコンソメスープ
アペリティフ:シェリー・アモンティリャード2. ブリニのデミドフ風(キャビアとサワークリームの載ったパンケーキ)
シャンパン:ヴーヴ・グリコの1860年物3. ウズラとフォアグラのパイ詰め石棺風 黒トリュフのソース
赤ワイン:クロ・ヴージョの1845年物4. 季節の野菜サラダ
5. チーズの盛り合わせ(カンタル・フルダンベール、フルーオーベルジュ)
6. クグロフ型のサヴァラン ラム酒風味(焼き菓子)
7. フルーツの盛り合わせ(マスカットなど)
8. コーヒー
9. ディジェスティフ:フィーヌ・シャンパーニュ(コニャック)
(これらの料理もさることながら、1万フランの大半を占めたのはお酒の方ではないかと思ってしまいました。)
バベットの一世一代の晩餐会を、ぜひあなたも味わってください。
関連リンク:
1483夜 「バベットの晩餐会」イサク・ディーネセン(実はカレン・ブリクセン)(松岡正剛の千夜千冊)
#「愛と哀しみの果て」と同じ原作者だったとは
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