PLAY 「逆鱗」 NODA・MAP
NODA・MAP第20回公演「逆鱗」を見てきた。
(写真は、地下鉄から東京芸術劇場に向かう通路にあったポスター。)
ソーシャルメディアで見聞きする評判がよかったので、少し期待して劇場に向かったが、予想をはるかに超えてよかった。すごくよかった。ここ数年来で一番よかった、と感じた。一緒に行った友人も同じ感想だった。
1階D列ほぼ真ん中というかつてない良席で見れたのもあったのだろう。役者さんひとりひとりの表情がとてもよく見えたし、セリフもきっちり聞き取れた。(余談だが最近マイクを使うストレートプレイが目立つように感じていたが、NODA・MAPは使っていないのに、小劇団の雄・野田秀樹の矜持を感じた。)それでいて舞台全体もちゃんと見えるので、アンサンブルの作る空気の瞬間の変化などを楽しむことができた。
だがしかし、良席だけが感動の理由ではないだろう。
いつものように掛詞や狂言回し的な重層的なセリフが飛び交いつつ、「人魚」というファンタジーの世界のキャラクターを使って様々なものを描こうとしていた。それは一見欺瞞に満ちた皮相的な現代社会(STAP騒動もネタにしつつ)を描いているのかと思いきや、行き来する海の表面と底、その「底」にこそ思いがあった。
「人魚の設計図」が本当に示していたものが何だったか気付いたとき、野田さんの「本当にいいたかったこと」が舞台全面に満ちたような気がした。
野田さんはここ数年、第二次世界大戦は何だったのかをつきつける作品が多かったが、観賞後正直どこかちくはぐな印象を持つことが多かった。こなれきれてないというか、エンターティンメントと「主張」を持ったストレートプレイのどちらにもなりきれないお腹いっぱいさ、というか。だが今回は見事に融合して、腹の底にずどんと響く傑作を生み出した。
一人でも多くの人に見てほしいと、心から願う作品。
おまけ写真をいくつか。
ロビーにあった舞台装置のミニチュア
前から
横から
パンフレット(さかなクンとの対談が出色)
関連リンク:
NODA・MAP「逆鱗」 強烈な視覚効果を生む奇想(NIKKEI STYLE)
難しい言い方になるけれど、この舞台の急所は言葉の分裂にある。内面の声と建前の声。死にたくない本音と体制に順応する保身のささやき。70年前の作戦場面で対極の声を聴いて引き裂かれる阿部サダヲの哀感あふれる演技がいい。この劇では、戦争が内面の声を発せられない悲劇としてとらえられるのである。終盤の急展開に怒りがあらわ。命をないがしろにする声に異議申し立てをする「人魚」の声がきりきり響く。終盤は安心して見られる娯楽劇の水位を超えるが、還暦を迎えた野田の同時代に対する危機感がそうさせたというべきだろう。重い題材をいかに軽快に描くか。芝居は面白くないといけないと考える異能の演劇人による、ぎりぎりのエンターテインメント。
人魚で紡ぐ野田秀樹流ファンタジー!? 『逆鱗』開幕 (チケットぴあ)
表層的にコミカルに物事が動く水族館と、時の流れが止まったかのような海の底。舞台では、対照的なふたつの世界が、入れ替わり立ち替わり現れる。ほとんど何もない白い美術の中、舞台上を横切るアンサンブルキャストや数枚の透明パネルだけで、場所や時代が瞬時に移るさまはマジカルだ。このふたつの世界は奇妙に繋がっている。逆八百比丘尼は水族館では鰯ババアとしてお馴染みの存在だし、モガリやサキモリは夢か現かわからぬまま海中を彷徨って人魚達に出会う。そうかと思えば、人魚ショウの出演者オーディションに、本物の人魚であるはずのNINGYOが応募する場面も。時に登場人物自身も混乱しながら、水族館と海底とを往還する。
やがて、重要な任務を負う“潜水鵜”として海に潜るサキモリ、モガリ、イルカらと共に、劇は怒涛の展開へ。果たして、人魚の正体とは、届けるはずの電報とは、逆さについた鱗=逆鱗とは……? 無数のピースが合わさって迎えるクライマックスには息を飲む。劇中、モガリが“誰もいない海”を見ることができる人はいないと指摘する台詞があるが、そうしたものを観客が目撃し得る演劇の特性、そして観客としての責務にも、思いを巡らさずにはいられない。
現実と非現実を行き交いつつ、圧倒的な真実を浮かび上がらせる、野田秀樹流ファンタジー。主要俳優陣の生き生きとした確かな演技と、アンサンブルキャスト達による息の合った動きが、独特の世界に命を吹き込んでいた。
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