Isn't She Lovely
なぜここに行ったのか、あまりに幼くて記憶がない。
漁船の通信士だったという父が、仕事で銚子港に寄港した折なのだったのか。
父と一緒に写ってる写真はもともと数が少なく、成長してからはほとんどない。
私の中での父との思い出の一枚というと、これになってしまう。
この写真をアルバムから探し出すときは、たいていはきっかけがスティービー・ワンダーの「Isn't She Lovely」だ。
邦題は「可愛いアイシャ」。娘のアイシャが生まれたとき、スティービーが「ほら可愛いだろう!なんて可愛いんだ僕の娘は」とひたすら歌った曲。
20歳を過ぎた頃、ラジオか何かで初めてこの曲を耳にしたとき、気が付いたら涙が止まらなくなっていた。
そんな自分に驚いた。
以前「父とのこと 」というエントリで書いたような事情で、私は父との関係がうまくいっていなかった。自分では単純に疎ましい存在なのだと割り切っていた、つもりだった。でも。
泣きながら私は「ああ、私は、お父さんにこんな風に『Isn't She Lovely』って言ってほしかったんだ」と、愕然とした。愛してほしかったのだ。誰より大事だと言ってほしかったのだ。
とは言えそれに気が付いてもそう簡単に関係を変えられるほど状況は単純ではなく、結局結婚して家を出て物理的に距離を置けるようになるまで、普通に彼と話をすることはできなかった。
今はこちらもそこそこの年齢になり、父にもいろいろ思うところやつらい経験があったのだろう、と想像するくらいには大人になったが、それとは別に、精神的に苦しいときに「Isn't She Lovely」をふと耳にすると、どうしても涙があふれてくる。困ったことだが、自分のストレス状態の目安になってると思ってつきあい続けるしかないのだろう。
ちなみにスティービー・ワンダーの娘の名前が「アイシャ(アーイシャ)」だというのは、成田美名子さんのマンガ「エイリアン通り」で知った。シャールの家庭教師・セレムが里帰りした話で、アーイシャという名前に対してセレムが「スティービー・ワンダーの娘と同じ」ハッサンという知人が「ムハンマドの娘と同じ」と同時に反応して、「お前もだいぶアメリカナイズされたな」とハッサンにあきれられる、というシーンだ。これをかなり前に読んでいたので、知識としてスティービー・ワンダーの娘の名前は知っていた次第。
関連エントリ:
生まれてきてよかった、と思いたい(2005/1/18)
#「Isn't She Lovely」収録アルバム。他にも名曲が満載の名盤。
Motown (2000-05-02)
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#「エイリアン通り」のセレムの里帰り話が載ってる巻
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