« BOOK 「ウチの失語くん: 脳出血からの1年半。ふたりだからできたこと。」 米谷瑞恵 | トップページ | ルピシア夏の福袋2015、到着しました »

2015/06/26

MOVIE 「あん」

An_poster_1河瀬直美監督の最新作「あん」を見てきた。
(写真は、新宿武蔵野館のロビーにあった特大POP)

※以下内容に触れているため、未見の方はご留意ください

MOVIE WALKERにあるあらすじはこちら。

縁あってどら焼き屋「どら春」の雇われ店長として単調な日々をこなしていた千太郎(永瀬正敏のもとに、ある日、求人募集の張り紙を見た徳江(樹木希林)がやってくる。彼女の勢いにのまれどら焼きの粒あん作りを任せたところ、あんの味が評判となりあっという間に店は大繁盛。つぶれたどら焼きをもらいにくる女子中学生・ワカナもだんだんと徳江に馴染んでいく。しかしかつて徳江がハンセン病患者だったことが広まり、客が一気に離れていった。この状況に徳江は店を去り、千太郎やワカナの前から消えてしまう。それぞれの思いを胸に、二人は徳江を探す……。

周囲でとても評判が良く、5月30日からの公開でまだ多くの映画館で上映されている本作。
評判に違わない、じんわりと胸にしみ入る、とても素敵な作品だった。
見終わったあとも、徳江さんや千太郎があの店でどら焼きを焼いていそうに思えて仕方なかった。そのくらい登場人物たちが「生きて」いた。

満開の桜の時期から話は始まり、葉桜、紅葉、落葉を経てまた満開の桜の季節で終わる。
その間に出会い、深まり、しかし別れが訪れ、再度出会って、そして次へ向かっていく。

故意にしろ故意でないにしろ、どうにもならないことに阻まれた人がそれでも何とか耳を澄ませ、目を凝らして自分が関わる相手からのメッセージをじっくり受け取ろうとする。そうすることで相手を最高の状態で「おもてなし」できる。その「相手」が徳江にとっては小豆であり、空であり、自然だったのだ。

最後に明かされる、徳江がなぜ「どら春」で働こうと思ったのかという理由。つらい人生(とひと言では言い切れないものではあるが)を送ってきた彼女だからこそ、そうせずにはいられなかったのだと伝わってくると、ただただ涙がこぼれるばかりだった。

出てくる人たちは必ずしも「いい人」ばかりではない。もっと正確に言うと「いいことばかりをしている人」ではない。あたたかい気持ちもある一方で、ずるさ、恐れ、エゴ、そんな様々なものを普通に抱えた普通の人たち。だからこそ、「生きる意味」が伝わってくる、そんな気がした。

オフィシャルブックに、徳江のあんのレシピが載っていた。Food Watch Japanの記事でその内容をテキストに起こしてくれていたので、ありがたく引用させていただく。

「あん」のどら焼きと餡作り(Food Watch Japan)

餡作りを50年続けてきたという徳江のこだわりは、彼の想像を遥かに超えていた。下記のレシピからもその一端は伝わってくる。

徳江の餡作り
●材料(どら焼き約110個分)

(あ)製餡
小豆(生豆) 1000g
(い)蜜漬け
グラニュー糖 1300g
蜜漬け用の水 500g
(う)どら餡練り
水飴 150g程度

●作り方

(あ)製餡
1 水をたっぷり入れたボウルに小豆を入れて、約ひと晩、漬けておく(水漬け)。
2 ボウルの中にザルを入れて小豆をあけ、ザルをボウルから上げて流水をかける(洗い)。
3 適量の温水を入れたサワリ(銅のボウル)に2で洗った小豆を入れ、水を豆の上3cmくらいまで足して加熱する。
4 沸騰後、豆にシワが寄ってきたら(3分間ほど)、水を入れたボウルにザルを入れ、小豆をあける(びっくり水)。熱した豆を急に冷やすことでふっくら煮ることができる。再び小豆を適量の温水を入れたサワリにもどし、水を豆の上3cmくらいまで足して加熱する。
5 沸騰後、5分ほど煮たら、4と同様にして湯を替える(渋切り)。小豆をサワリに戻し、温水を豆の上1~2cmくらいまで足して加熱する。
6 沸騰したら火を弱め、フタをした状態でアワがぷつぷつ沸くくらいの弱火で煮込んでいく。途中、豆が湯から出ない程度に湯を足す(本煮)。
7 60~70分煮込んだら火を止め、10分間おく(蒸らし)。
8 冷水を静かに注ぎ、上水が透き通るまで流し続ける(水晒し)。
9 水を入れたボウルにザルを入れ、小豆をあけ、静かに持ち上げて水を切る(水切り)。ボウルに冷水を入れて放置し、ゴ(小豆の煮とけたもの)が沈んだら上水を捨てる。これを上水が透き通るまで2~3回繰り返す。このゴと、ザルで水を切った小豆とを混ぜ合わせて、粒生餡の出来上がり。

(い)蜜漬け
1 サワリに水とグラニュー糖を入れて加熱する。
2 沸騰してグラニュー糖が溶けたら、(あ)の粒生餡を入れる。
3 中心部からもアワが出て全体的に沸騰したら、火を止めてフタをする。
4 2時間以上寝かせる。

(う)どら餡練り
1 蜜漬けした(い)を加熱する。
2 沸騰してきたら、ときどきヘラでサワリの底をこするようにゆっくりと豆を動かす。
3 全体的に沸騰したら中火にし、2と同様にして豆を動かしながら煮詰めていく。
4 とろみがついてきたら水餡を加え、溶けて混ざったら火を止める。
5 番重に流し込んで完成。

(参考文献:「あん」オフィシャルブック)

 このように、時間と手間のかかる繰り返しの多い作業を、徳江は一つひとつ丹念にこなしていくのだった。

あの餡がこんな風に手間隙かけて作られているのだということを、恥ずかしながら初めて知った。
たしかに、煮豆の状態そのままとあの「餡子」は違っている。蜜に着け煮詰め、水飴を入れてさらに混ぜていくというプロセスがあって、初めてどら焼きにはさまる餡になるわけだ。これから和菓子をいただく時、あの徳江の餡づくりの風景を思い浮かべそうだ。

ふっくら、つやつやとした餡はとてもおいしそうで、まさに小豆を「おもてなし」して出来上がった逸品。

オフィシャルブックには主要人物を演じた3人(樹木希林さん、永瀬正敏さん、内田伽羅(きゃら)さん)のインタビューも載っているが、驚いたのが登場人物の住まいとなった場所に本当に彼らが泊り込んでいたということ。街の中に本当にあの「どら春」を作っていて、永瀬さんはカメラが回ってなくても本当にどら焼きを作って売って、そのお金でお昼の弁当を買いに行ってたという。なんというリアリズム。道理でフィルムの中で彼らが淡々と普通に「暮らしてる」感じがしたわけだ。河瀬直美監督の作品を見るのは今回が初めてだが、風景で語る絵を撮る方だなあ、と生意気にも思ったりした。桜とか、月とか、森とか、電車とか、空気感含めてとても「語って」いたように感じた。

静かに描かれる日常や心象を眺めながら、時折はっと胸を鷲掴みにされるシーンが入り、終わりには自分なりに意味を持って、丁寧に生きるということを考えさせられる作品だった。

予告編。

参考リンク:

映画「あん」の写真展 東村山(YOMIURI ONLINE)

ほぼ全編が東村山市内で撮影され、5月30日に公開された映画「あん」(河瀬直美監督)のシーンやロケ地などを紹介した「映画『あん』写真展」が市立中央公民館(本町)で開かれている。

 市主催で、ロケ地となった国立ハンセン病療養所「多磨全生園」の地図と映画のシーンも掲示し、園の自然を保存していく「人権の森」構想の取り組みも紹介している。市では、写真展を通して、園入所者自治会と市が取り組んでいる同構想への理解も進めたいと考えている。


樹木希林、海外映画祭で最優秀女優賞に輝く!『あん』W受賞(cinemacafe.net)

映画「あん」で話題の塩(長崎新聞)

新上五島町似首郷の虎屋(南こころ代表)が製造、販売する「中秋の名月の塩」が、樹木希林さんらが出演する公開中の映画「あん」(河瀬直美監督)の中で使われ、地元の話題になっている。

 「名月の塩」は南さん(37)の実父で、昨年、61歳で他界した虎屋創業者、犬塚虎夫さんが2005年に生産を開始。約3年前からは南さんの夫、慎太郎さん(36)が義父の遺志を受け継いで取り組んでいる。

 「名月の塩」は、年に1度、「中秋の名月」の旧暦8月15日にタンクで海水をくみ取る。この時期は、サンゴやカニが産卵することなどで最もミネラルバランスが良いという。

樹木希林、カンヌをゆく 仏記者に「抱きしめたい」と言われ…(産経新聞)

「朝方、町の縁(へり)の所でコーヒー飲んでたら、声をかけてきた人が『昨日見ました。(映画を)買います』って。どこの国ですかって聞いたら『オランダ』『ベルギー』って2人はおっしゃってた。(カンヌは)ほかの映画祭より規模が大きくて世界のバイヤーが札を下げて来てるんですよね」

偏見と差別の歴史後世に ハンセン病題材の映画「あん」(東京新聞)

西武新宿線久米川駅前の丸山書房。代表の丸山敬生さん(67)と妻享子さん(63)が手作りの「あん」ロケ地マップを店頭に貼りだしている。二十四日に訪れたドリアンさんは、書店に集まった市民らを前に「あん」が生まれるまでのエピソードを披露した。

 ドリアンさんは二十年ほど前、ラジオ番組で、中高生が「世の中の役に立たないと、生きている意味がない」と話したのに違和感を持ち、小説などで生きる意味を問い掛けたくなった。らい予防法が廃止されたころで、ハンセン病を題材にしようと患者の手記を読んだが、執筆を断念した。あまりに壮絶な人生に「心がやけどした」という。

 二〇〇九年ごろ、埼玉県内でライブに来た多磨全生園入所者から「遊びに来れば」と言葉をかけられた。全生園へ通ううち、あらためて小説執筆を決意。入所者と交流しながら十二回書き直し、一三年に出版した。河瀬直美監督に「映画にしたい」と手紙と本を送ると、一カ月ほどして「号泣した」との返事が届き、映画化が決まった。

#映画が気に入ったら、ぜひ。情報ぎっしりのオフィシャルブック。

あん オフィシャルブック (キネマ旬報ムック)

キネマ旬報社 (2015-05-25)
売り上げランキング: 3,131



#原作本
([と]1-2)あん (ポプラ文庫)
ドリアン助川
ポプラ社 (2015-04-03)
売り上げランキング: 170



#映画主題歌は秦基博さんの書き下ろし。
水彩の月(初回生産限定盤)(DVD付)
秦 基博
アリオラジャパン (2015-06-03)
売り上げランキング: 457

|

« BOOK 「ウチの失語くん: 脳出血からの1年半。ふたりだからできたこと。」 米谷瑞恵 | トップページ | ルピシア夏の福袋2015、到着しました »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

くりおねさん

「あん」「海街」、先月見ました。
(「駆込み女」は時間調整つかず断念)
ともに原作を読んでいるので、期待と不安が入りまじる気持ちでしたが、原作の要をうまく捉えつつも、監督&実写ならではの生き生きとした映像だったと思います。
特に、「海街」はおっしゃる通り、是枝さんの海街でした(^^ 

蛇足ですが、「あん」にクレジットされていたあんこ指導は、たしか池袋の「すずめや」さん。どらやき、和菓子、オススメです。

そういえば、樹木希林さん、三作品(「駆込み女」)すべてに出演されていますね(^^;

投稿: 凛花 | 2015/07/20 00:34

この記事へのコメントは終了しました。

« BOOK 「ウチの失語くん: 脳出血からの1年半。ふたりだからできたこと。」 米谷瑞恵 | トップページ | ルピシア夏の福袋2015、到着しました »