BOOK 「ウチの失語くん: 脳出血からの1年半。ふたりだからできたこと。」 米谷瑞恵
ある日突然、家族が「失語症」になってしまったら。
そんな出来事に襲われた40代後半夫婦二人の日々のリハビリの様子などを綴る電子書籍 「ウチの失語くん」を読みました。
Amazonにある書籍の内容紹介はこちらの通り。
47歳。脳出血で倒れたオットは、失語症となった。「あいうえお」から始まったリハビリに、懸命に取り組むオット。その毎日を、絶妙なツッコミを入れつつ、愛情深く記録したツマ。爆笑しながら読み終えたら、元気と希望がわいてきた!
この本を読むまで、失語症についての正確な知識は持ち合わせていなかったので、てっきり「言葉を話す」機能だけの障害なのかと思っていたら、全然違うということを初めて知りました。
けあサポというサイトで説明されている障害内容について引用します。
失語症になると、「話し言葉」だけでなく、言語にかかわるすべての作業が難しくなります。症状の特徴には、次のようなものがあります。
■聞いて理解する・話す・読む・書くなど、言葉に関する能力に障害が起こります。
■脳の損傷部位や広さによって、症状は異なります。
■言葉によるコミュニケーションが難しくなります。
そして合併症としてこのような症状も見られる、と。
脳の損傷が原因で起こる失語症には、言語障害以外にも次のようなさまざまな症状を合併している場合がよくあります。
■右半身の麻痺
■右視野の障害(視野障害・右半側無視)
■身振りやジェスチャーが難しい(失行症)
■同時にいくつものことに注意が向かない
■疲れやすい
■感情のコントロールがうまくいかない
■集中力が低下する
■自分から行動を起こせない、など
「ウチの失語くん」にはまさにこのあたりの具体的な様子が書かれていました。
筆者である米谷さんのご主人の加藤さんは、会社帰りにカラオケに行ってるときに、突然体調が悪くなり、そのまま搬送されたとのこと。ただ、幸運だったのは、一緒にいた上司の方が脳出血に関する知識をお持ちで、めまいがする、ろれつが回らない、片側の麻痺、目の見え方がおかしい等の様子をチェックしてこれは脳出血の可能性が高いと判断、すぐに救急車で搬送してもらったこと。脳出血は早期対処が何より大事といいますので、これはとても大きかったのだろうと思います。
とは言え出血で損傷したと見られるのが脳の言語を司る領域。ここから「失語くん」の生活が始まったのです。
言葉を使ったコミュニケーションに不自由が出てしまったご主人に代わって、当面休職しなければならないこと、しばらく入院することなどを加藤さんの会社や友人に伝えなければならなくなった米谷さんがはたと思いだしたのがfacebook。会社は別として、友人に近況を伝えるにはもってこいのツールです。そんなわけで入院の連絡から近況報告としてfacebookに記録していった内容が一冊の本になったのが本書。ほぼ時系列に書かれていて、興味深いレポートになっています。
入院直後の加藤さんは、米谷さんの言葉を借りれば「東日本大震災の津波のように、脳から言葉をあらいざらいもっていかれた」状態で、ひらがな、カタカナ、漢字をもう一度覚え直す必要があったそうです。でも耳の機能はまったく損傷はないので、相手の言ってる事はわかる。ただそれを表現する「言葉」が欠損しているのだそう。
あと、数字を扱う部位が損傷しているので、数字を読んだり理解したりするのが難しくなったといいます。「121」を「ひゃくにじゅういち」と読めない、とか。
そして脳出血の後遺症で視野が狭くなっていること、疲れやすいことなどが日常生活では気を付けないといけない症状としてあるそうで。
ライターである米谷さんは、職業柄か「この言葉をこんな風に間違うのか」「この言葉はすんなり出てくるのにこっちは難しいのか」と好奇心を持ちながら、リハビリのメニューや具体的な二人のやりとりなどを、悲壮感を持たずむしろ軽妙なあたたかいタッチで書き綴ります。もちろん実際は書けない思いなどもあっただろうと思いますが、そんな様々な記述が、「失語症」という障害についていろいろと知る機会を与えてくれました。
実は、米谷さんは古い友人です。ここ数年は年賀状で近況報告しているくらいでほとんど連絡を取れていませんでしたが、お二人の結婚式にも出席しました。たまたまfacebookで「知り合いかも」のところに米谷さんがひょいっと出てきて、最近どうしているのかな、とクリックして近況を見たら、言語療法士の専門学校に通っている、きっかけはご主人が失語症になった事、ということを一気に知ってびっくり。詳しい事を知ろうと、この「ウチの失語くん」をダウンロードして読んだ、という次第なのです。加藤さんも直接お目にかかったのは少ないですがいつも米谷さんからいろんなエピソードを聞いてたので、まさかあの加藤さんがそんなことに、とショックを受けつつ、とてもリアルに二人の様子を思い浮かべながら本書を読み進めました。
回復には時間がかかる障害のようなので、米谷さんがまずは専門学校を無事修了して来年の国家試験に合格する事と、少しずつでも加藤さんの症状が改善し続けることを陰ながら祈っています。併せて、失語症という障害について少しでも理解が広がるといいなあと思い、勝手ながら本書を紹介しております。まったく予備知識のない方でも(と言うかそもそも筆者である米谷さん自身がそうでした)わかりやすく読み進める事ができますので、ご興味お持ちいただけたらぜひご一読いただけるとうれしいです。
参考リンク:
「どうする?Over40」メンバーのCometさんの著書「ウチの失語くん」が出版されました。(どうする?Over40)
「どうする?オバフォー」のメンバーたちは、Cometさんがフェイスブックに日々、綴る<ウチの失語くん>を愛読しており、「これ、本になったらいいなあ」とずっと思っていました。その願いが実現し、多くの人に読んでもらえる。うれしいです。微力ながら、大々的に宣伝するつもりで、わたくしも、力、入っています。(出版に「どうする?オバフォー」は関係していませんけどね)「ウチの失語くん」は、2012年の7月にCometさんの「オット」の加藤俊樹さんが脳内出血で倒れ、その連絡をCometさんが「雨のそぼ降る都心の道路」で受けるところから始まります・・・と書くと深刻なようですが、いや、もちろん深刻じゃないことはなかったにちがいないんですが、Cometさんが「そのときのオット」と「そのときのワタシ」に、つねに、ちょっと形容のむずかしい、独得かつ絶妙な距離をとりつづけているので「軽妙な読み物」になってしまっているのです。
循環器病あれこれ [15] 脳卒中と言葉の障害(国立循環器病研究センター)
「失語症」という言葉を聞くと、「話すこと」ができない状態と思われがちです。話せないのなら、患者さんは筆談をすればよい、「あいうえお、かきくけこ・・・・・」の五十音表の文字を指差しながらコミュニケーションを図ればよい、と受け取られることがしばしばです。失語症の患者さんを見て、「ぼけた」「赤ちゃんのようになってしまった」と思う人も少なくないようです。
そう思った人の中には、言葉の訓練として「あいうえお、かきくけこ」と唱えさせたり、話せない言葉を何度もまねさせたり、幼児向きの絵本を読ませたりすることがよくあります。
しかし、これらは「失語症」についての「誤解」であり、好ましい接し方ではありません。
大脳(たいていの人は左脳)には、言葉を受け持っている「言語領域」という部分があります。失語症は、脳梗塞や脳出血など脳卒中や、けがなどによって、この「言語領域」が傷ついたため、言葉がうまく使えなくなる状態をいいます。
つまり、失語症になると、「話す」ことだけでなく、「聞く」「読む」「書く」ことも難しくなるのです。
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