COMIC 「海街diary」 吉田秋生
これ、いいよ、と周囲でじわじわと話題になっていて、吉田秋生で鎌倉が舞台ならば読みたいなあと思いつつ、後回しにしていた作品。先日是枝監督で実写映画化されると聞き、それならば今のうちに原作を読んでおこう、と例によってkindle大人買いで現在発売中の1巻から5巻までを一気読みした。
※以下内容に触れていますので、未読の方はご留意ください。
相変わらずみずみずしいなあ、というのが、久し振りに吉田秋生を読んだ最初の感想。
父親が浮気相手と駆け落ちして家を出て行き、残された母親も再婚して出て行った家に残された三姉妹と祖母。その祖母も亡くなって今は若い三姉妹だけで暮らす鎌倉の一軒家。そんな三人に、出て行った父親が亡くなったという知らせが入る。山形の温泉街に向かった三人を迎えたのは、父親が駆け落ちしたあとできた子ども、彼女たちの異母妹・すずだった。すずが小さいときに母親は突然亡くなり、移り住んできたこの温泉街で父親は子連れの女性と再婚。しかし父親は急激に進行するガンであっと言う間にこの世を去ってしまった。
そんな何とも複雑な事情から始まる話だが、温泉街などで進む会話で三姉妹のキャラクター、立ち位置などがなんとなくわかり、葬儀という場で亡くなった父親がどんな存在だったのかが描かれる。割り切れないものを抱えながらの対面だったが、行き場を失ってしまったすずに、三姉妹の長女・幸(さち)が「鎌倉で一緒に暮らそう」と提案。一カ月後、四姉妹の暮らしがスタートする。
ここまでが第一話のあらまし。複雑な話が淡々と描かれ、極楽寺の彼女たちの「女子寮」(すず曰く)の生活をそっと見せてもらっているような気分になる。マンション暮らしの自分には懐かしい昭和の木造家屋の暮らし。門があって、雨戸があって、庭があって、狭い階段を登ると自分の部屋がある。ちゃぶ台を囲んで食事をしたりおやつを食べておしゃべりしたり、テレビを見たり。縁側の向こうに見える庭の空気感も伝わってくる。懐かしさに満ちた描写。
長女の幸は市民病院の看護師。人の生き死にに関わる仕事だ。次女の佳乃は地元の信用金庫勤務。お金という面で、こちらも人の普段は見えない修羅場に関わる仕事。三女の千佳はスポーツショップ店員。スポーツという局面で陰陽さまざまに人に関わる仕事。意図してかどうか、彼女たちの仕事はキャラクターを表すと共に、人生のどこかに各々違う形で関わる配置になっている。
話の中心になるのは、すずだ。父を亡くし山形から移り住んできた中学一年生の少女は、サッカーという特技を通して見知らぬ土地になじんでいく。すずを通して見る鎌倉という街の重厚さと歴史。海と山の近さ。漁港もあり、海の幸が美味しい街。そんな街で暮らす友人たち、友人たちの家族。その中ですずは凍った心を少しずつ溶かしていき、ようやく「子どもらしく」ふるまえるようになる。
初めての恋、初めての失恋。三角関係。やがて自分に思いを寄せる相手に気づき、少しずつ相手と心の距離が近づくうれしさと不安、落ち着かなさ。このあたりの描写のみずみずしさは、「櫻の園」の吉田秋生節健在だ。
登場人物の様々なエピソードを通して、人の抱える様々な面、あたたかさと残酷さ、やさしさと身勝手さ、強さと弱さ、親密感と孤独感、それらをあくまで肯定的に「まあ、みんないろいろあるよ」と描き、一筋縄ではいかないけど、なんだかんだいって人生って捨てたもんじゃないよね、そんな風に思わせてくれる。
その中心になるのは少々複雑な事情を抱えた家族だけど、普遍的な若い女性のドラマになっていて、じっくりと読みごたえのある作品になっている。未完なので、これからの展開も楽しみだ。
もともと鎌倉は好きな街なのだが、この作品に出てきた場所を訪れに、改めて鎌倉に行きたくなる。アジフライとしらすトーストを食べたり、あんみつを食べたり、おいしい日本酒を飲んだりして過ごしたい。
サブタイトルがいろんな曲へのオマージュになっているのもいい。この曲誰の曲だっけ、と思いだしながら読むのも楽しみ方のひとつ。
参考リンク:
映画「海街diary」4姉妹に綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆ら(コミックナタリー)
鎌倉を舞台に、新しく家族を迎えることとなった姉妹の共同生活を描く「海街diary」。長女・幸役は綾瀬はるか、次女・佳乃役は長澤まさみ、三女・千佳役は夏帆、そして幸たちの異母妹となる四女・すず役は広瀬すずがそれぞれ演じる。キャスティングにあたっては「今、誰を撮りたいか」を最優先に考えたという是枝裕和監督も太鼓判を押す、4人の演技に注目したい。映画は2015年初夏に全国ロードショー。
「海街diary」(吉田秋生)のしらすトーストとジンジャーミルクティー(マンガ食堂)
4巻の「おいしい ごはん」のエピソードには、たくさんのおいしそうなシーンが登場しますが、なかでも気になったのが「しらすトースト」。カフェ「山猫亭」の人気メニュー。トーストの上にバターとしらす、海苔がのっていて「このコラボがもーサイコー」らしい。すずにとっては、亡くなった父親が家でよく作ってくれた思い出の味。父親は、もしかしてこの店でこのトーストを食べたのかもしれない。風太とこの店に再訪し、彼女がいろいろな思いをこめて「おいしい」とつぶやくシーンは、しみじみ感動的です。
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#青(性?)春を描いた名作。
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