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2013/10/05

MOVIE 「そして父になる」

Like_father_like_son_catalog是枝裕和監督の最新作「そして父になる」を見てきた。

今回も静かで一見淡々とした描写で、でもここぞという数少ないポイントで大きく気持ちを揺さぶってきた。

※以下内容に触れていますので、未見の方はご注意を。

是枝監督の作品は「幻の光」「誰も知らない」「奇跡」と、全部ではないけど数作品見ていて、新作となると気になる監督さんの一人である。今回はカンヌ映画祭に出典され、審査委員賞を受賞という報もあり、何より「6年間育てた息子は、他人の子どもでした」というコピーが強烈に響いて、これは必ずロードショーで見たい、と思っていた。

大企業にエリートとして勤め高層マンションに住み、一人息子はお受験を経て私立小学校に通う野々宮家と、前橋で電器店を営み、認知症の祖父と三世代同居する三人兄弟のやんちゃな長男がいる斎木家。普通なら何の接点もない二つの家族が出会うことになったのは、ありえない「取り違え」が6年後に発覚したためだった。

映画は野々宮家の一人息子・慶多のお受験面接シーンから始まる。上質そうな仕立ての服を着て面接官の質問に答える、幸福そうな三人家族。しかし合格が知らされた頃には、取り違えをきっかけにしたDNA鑑定で「生物学上の親子でない」ことが判明(結果報告書の文字だけでそれを伝える。現実は冷酷だ)。相手の親との面会がセットされる。

そこでお互いが差し出す子どもの写真。おそらくは受験の時に取ったスーツ姿の慶多に対し、相手方の息子・琉晴はプールでの水着姿。対照的な二人。対照的な二組の両親。

これからどうするのか。「世間では100%血のつながりを選んで交換する。できるだけ早い決断を」と求める病院。病院相手の訴訟も起こしつつ、まずは一家で会う時間を作り、そのうち週末実の家族の家に一泊させる。最初に泊まった日の、野々宮家の食事はすき焼き。斎木家は餃子。すき焼きを食べながら福山雅治演じる野々宮良多は琉晴の箸の使い方を直し、みんなに圧倒されて餃子に手が出せない慶多に「遠慮してるとなくなっちゃうよ」と促す斎木の妻・ゆかり。これだけ違う環境に育った二人が、もし交換されたとしてうまくやっていけるのか、不安感を感じさせる描写だった。

途中「取り違え」が実は「取り替え」だったことが、裁判で明らかになる。当時勤務していた看護士が幸福そうな野々宮家に嫉妬して同じ日に産まれた二人を入れ替えたと証言した。今さら言われても時効となる罪に、二組の親たちはなすすべもない。

家族を自分の完璧な人生のパーツのように扱っているかのように見える良多が、自分の実家に顔を出すシーンが入り、父親とうまくいってないこと、継母を「お母さん」と呼べずにいることなどが示される。父から言われる「大事なのは血だ」継母から言われる「血なんかつながっていなくたって情は沸く」両極端の言葉に悩みつつ、一旦は「血」を選び、琉晴を引き取り慶多を送り出す。

裕福ではないが賑やかで楽しい斎木家におずおずと馴染もうとする慶多に対し、ハイソで窮屈な野々宮家の生活にどうしても馴染めない琉晴。マンションの窓から下の公園で凧揚げをしているのを見てふらふらと前橋まで帰ってしまう。丁度その頃仕事も一線からはずされてしまった良多は琉晴に合わせてみることを試み、家の中でテントを張ってキャンプごっこをしてみるが、流れ星を見ながら「何をお願いごとしたの?」と野々宮の妻・みどりが聴くと「前橋のパパとママのところに帰りたい」と言って顔を覆う琉晴。マイペースに見えて深く傷ついていた彼。

そして家で良多がふとしたことで見た、一眼レフ。そこに撮られていた写真の数々。

もうここで号泣。写真が強烈なメッセージになっていた。

慶多がどれだけ良多を求めていたか。良多に愛されたがっていたか。

子どもたちと向き合うことで、少しずつ良多が完璧でない自分を見せるようになり、そして最後に自分の気持ちに正直になってみることにする。

結末は「おそらくこうしたのだろう」と想像させるもので、はっきり示されてはいない。でもそれでいいのだと思う。「正解」はどこにもない。
家族の情愛を実感できずに育った良多が「取り違え」という事件に巻き込まれたことで、「父」となり、「夫」となり、本当の意味での「家族」を得られたのだろう。

この作品、自身が親である方々は、父親、母親、それぞれに感情移入して見られるのだろうが、私は子どもをもっていないこともあり、慶多の視点になっていた。慶多、ずっと苦しかったね。いい子でいないとパパに嫌われる。ママも悲しむ。だからずっとがんばっていい子でいたのに、ある日突然別の人をパパと呼べと、その家に行けと言われる。パパにいらないと言われてしまった。そっちの家の人達はみんないい人だし、年下の子どもたちは可愛くて念願の「お兄ちゃん」になれたけど、でも、ここは僕のいる場所じゃない。でも帰れない。僕はどこにもいられない。
そんな気持ちではなかっただろうか。

「大事なのは血だ」「血なんかつながっていなくたって情は沸く」おそらくどちらも本当なのだろう。だから人は苦しむし、それでも家族として生きていく。血の繋がりも大切かもしれないけど、決してそれだけではない。

まずは、見て、この時間を彼らと一緒に「体験」してほしい。一緒に悩み、苛立ち、運命を呪い、愛し、その中でどういう結論を出そうとするか。あなたならどうするか。考えてみてほしい。そういう貴重な「体験」ができる作品。

最後に少々個人的なことを。
父の連れ子で、産みの母親似(らしい)私は、ご近所から「あそこの家はお姉ちゃんだけ似てない」と言われてた(らしい)。だからなおさら、血が繋がってるとか繋がってないとか、似てるとか似てないとか、そんなことどうでもいい世の中に早くなったらいいのにな、と思う。

10/9 追記

是枝監督のインタビュー記事。奇しくも私が上記に書いたようなことを監督も話されていました。

イマジン:第4部 はぐくむ 番外編/上 理想の家族像は絞れない−−是枝裕和監督インタビュー(毎日jp)

−−30年くらい先の近未来、家族はどんな形であればいいと思うか。

 ◆子どもがあろうがなかろうが、血がつながっていようがいまいが、子どもが私生児だろうが、どんな状態の家族であっても、法的な制限や差別を受けない社会になってほしい。

 今の法律は、家族の多様性を認めていない。今と違う婚姻の形が許されれば、そういう結婚をする人だっているだろうし、同性婚も出てくるだろう。今の制度は変わるべきだと思う。ただ、人々の意識については、個々でやっていくしかない。一人一人が多様な幸せがあると考えながら周囲に接する、その積み重ねだと思う。

 日本は同調圧力が強いから、みんな同じ方が安心だと思っていて、理想だという方向にまとまりやすい。だが、理想の家族像を一つに絞ることは、理想ではないという家族像を思い描くことになる。それは避けるべきだと思う。

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