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2013/02/17

BOOK 「北の無人駅から」 渡辺一史著

北の無人駅から東京大学の中原先生がブログで紹介されていて、無性に気になっていた「北の無人駅から」を、ようやく読むことができた。

※以下内容に触れているため未読の方はご注意を。

中原先生の記事では冒頭このように紹介されていた。

もうひとつの「北海道」、それは「分厚い記述」と「圧倒的なリアル」:渡辺一史(著)「北の無人駅から」を読みました!(NAKAHARA-LAB.NET)

渡辺一史(著)「北の無人駅から」を読みました。書名を一読すればわかるとおり、この本が「オマージュ」としてかかげるのは、倉本聰原作「北の国から」。
「北の国から」をリスペクトしつつも、本書では、それとは違う路線をねらいます。「定型的」で「慣習的」な「北海道の語られ方」を敢えて「拒否」するという意味で、「北海道の現実」「北海道に生きることのリアル」を浮かび上がらせようとする、知的試みです。

そして、取材された無人駅として、「小幌」「茅沼」「新十津川」「北浜」「増毛」「奥白滝信号場」があげられていた。
この「奥白滝信号場」の名前を見て、読んでみようと思ったのだ。
なぜなら、奥白滝は私が遠軽に帰省する時に必ず通っている、馴染みのある地名だからだ。

旭川から網走までを走る石北本線の途中、上川と遠軽の間の区間にこの駅はある。いや、今は駅ではなく信号場となってしまっているが。
駅名を並べると下記の通り。

上川駅→中越信号場→上越信号場→奥白滝信号場→上白滝駅→白滝駅→旧白滝駅→下白滝駅→丸瀬布駅→瀬戸瀬駅→遠軽駅

特急オホーツクが上川駅を出ると、かなり長い間ひたすら山の中を走る。私が乗るのは基本的に冬なので、線路脇にウサギやキタキツネ、エゾシカなどとおぼしき動物の足跡を見ながら延々と続く山中を走る。一度エゾシカと列車が衝突して20分近く止まったこともあった。そんな山の中にかつてあったという「奥白滝駅」(今は信号場)を中心としてルポは始まる。

今でこそ山中の信号場だが、往時は2000人以上の人がいて、旅館も奥白滝駅前に2軒あったという歴史に驚きながら読み進めたが、一番興味を持ったのは、ここに人が移住してくるようになるには囚人による中央道路の開墾あってのことだった、という話と、石北本線の旭川~遠軽間を通すための陳情団「南瓜団体」の話だった。

「南瓜団体」について、石北本線の歴史について書かれたブログにこのように紹介されている。

白滝の鉄道12 石北線開通まで(Mint Jam・・・しらたき徒然草)

鉄道延期の危機に、鉄道予定沿線の有志は、鉄道敷設の陳情団を組織します。
  大正13年11月、団体53名は遠軽駅を出発。上京し、国会や鉄道省、関係大臣、
  政党・世論に激しく訴えます。
  陳情ののぼりのもと、団員自作のカボチャやイモなどを大量に持ち、
  それらを宿で煮て、弁当にしながら の活動。
  沿線地域の小麦などを原料にパンを製造している、大阪の実業家の援助もあったそうです。
  上京団体には滞在中地元からイモ・カボチャなども送られていました。
  
  白滝地区(白滝、旧白滝、上白滝、奥白滝、支湧別)からは計19名が上京しました。
  (当時の上京者の写真が大庭私設資料館に残っています)

   「鉄道がつかないと、運賃の加算された高い米は食べられない。
   毎日カボチャや芋ばかり食べている現状を見てほしい」と、
   国会の控え室などで、旅館で煮たカボチャを記者らにふるまい、
   カボチャ弁当を広げる百姓風の姿は、東京の新聞や雑誌に何度もとりあげられます。

   「カボチャ団体の陳情」として全国的に有名になり、
   カボチャ団体の様子を見に来る人や、励ます人も全国から来たそうです。
   同情的な記事が新聞や交通専門誌に載りました。

   東京での、涙ながらの、すさまじい請願活動は実を結び、
  大正14年9月、遠軽~丸瀬布間を国は認可、
    11月、石北線最初の工事が始められます。

しかし、この本のすごいところは、話が駅や鉄道の話で完結せず、その駅を中心とした町や人の暮らしの変遷まで丁寧に取材して書かれているところ。この奥白滝の話では、市町村合併の話に踏み込んでいく。どうやら白滝村では、遠軽町を含む4町村の合併でかなり大きな対立があったらしい。その合併をめぐる様々な立場の人達にできるだけ多く話を聴き、北海道のローカルな話から日本の地方行政がはらむ危うさを見事にあぶり出している。非常に読みごたえのある力作である。

美しい風景、おいしい食べ物、そういった「観光地」としての北海道ではなく、開拓されてきた土地、暮らす町としての変遷、そこで貧しくも根を張って生きてきた人達を、丁寧にフェアな視線で捉えて描く筆致にとても好感を持てた。

もしかしたら読む人を選ぶかもしれない。その厚さは手に取るのを躊躇させるだろう。けれど、だからこそ、いろんな人に読んでほしいと願う一冊だ。

そして、今度帰省したら、遠軽町史をじっくり読ませてもらい、義父の知る開拓の歴史をもう一度聴かせてもらおうと思う。

参考リンク:

2012年度 社会・風俗部門 サントリー学芸賞Life and Society 選評
渡辺 一史 (わたなべ かずふみ)『北の無人駅から』

本書は、北海道の無人駅を起点に、多くの無名の人たちの生き様を、直接の聞き取りや資料調査で微に入り細にわたって描いたものだ。主題や対象はきわめてローカルかつマニアックで、誰が読むだろうかと著者は悩んだという。しかし、特殊なミクロの世界もとことん穿てば、宇宙に通じる。本書の魅力は、名もない庶民の心の襞に深く分け入って、そこに豊かな宇宙を見出していることだろう。
 最初からグイグイ引き込まれる。酔って列車に轢かれ両足を失ったアイヌの文太郎が、もの凄い気力と体力、漁の腕前により、文字も読めないのに「アタマのええ」船頭として清水次郎長的な親分になる話。よそ者である都会人の自分勝手な「自然保護」の意識とはまったく違う感覚で、信念を持ってタンチョウやオオカミを相手に暮らしている「頑固な変人」たちとの心温まる交流。陸の孤島の漁村に道路が通じて変わる漁民たちの生活と心。また、こういう地元の人たちに、心を開いてもらうまでの涙ぐましい著者の努力。
 われわれが上からの目線で切り捨てる世界を、このように愛情をもって魅力的に浮き彫りにする作者の力量は、単に優れた観察力や文章力ゆえではなく、彼の人間性ゆえでもあろう。本書を読んですぐ思い出したのは、民俗学者宮本常一の名著『忘れられた日本人』だ。宮本と同様、本書も、地方の人たちの生活と心に関する貴重な時代の証言だ。そして、この証言には渡辺の個性が深く刻印され、他人には書けないものとなっている。途中に沢山挿入されている、辞典的な解説のページも懇切でスグレものだ。

石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞 >> 受賞作品詳細(第12回)
草の根民主主義部門 受賞者氏名 渡辺一史 受賞作品名 『北の無人駅から』

かつて大自然を求めバイクに寝袋とテントを積んで北海道内をまわった著者が、印象に残った無人駅を改めて取材して見たものは何だったか。駅前から消え失せた賑わい、ニシン漁場の夢の跡の遊郭、便利さから隔絶された限界集落、無人駅を取り巻くのは大自然に憧れる人々の甘さを打ち砕く厳しい人間ドラマだった。タンチョウは守りエゾ鹿は殺せという自然保護の矛盾、温暖化で失われつつある観光目玉の流氷、日本一の米どころに育て上げた開拓農民を裏切る米価下落、平成大合併を巡る住民たちの駆け引き。過酷な環境の中で必ずしもきれいごとでは生きられない人間の営みの現実を、十余年にわたってそれぞれの土地に幾度も足を運び人々の話を根気よく取材し掘り起したこの北からの報告は、地方に共通する難題の根源を鮮やかに摘出する。出版ジャーナリズムの面目をここにみた。(新井 信)

ひと:渡辺一史さん ルポ「北の無人駅から」でタブル受賞(毎日新聞)

北海道の現実に肉薄するルポ「北の無人駅から」(北海道新聞社)でサントリー学芸賞と早稲田ジャーナリズム大賞をダブル受賞した。

 六つの無人駅から七つの物語を紡ぎ出す。その一つ、室蘭線小幌(こぼろ)駅は左右にトンネルの黒い口が迫り、背中は山の急斜面。目の前の断崖は海へ落ちている。民家はない。誰のための駅なのか。<北海道はつくづく底知れないと思った>。無人駅を出発し、見えない「迷宮」へと読み手をぐいぐい引き込んでいく。

北の無人駅から
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