文藝春秋6月号の渾身の記事「NHK仙台・名物キャスター「頑張れ」と言わないで」
津田アナウンサーは石巻出身で、震災以降「ゆうどきネットワーク」内の「被災地からの声」というコーナーを担当。
番組情報ではこのように紹介されている。
東日本大震災の被災地の方々に「いまの思い」や「避難所で生活に必要なもの」などを、カメラに向かって語っていただきます。被災された方々の声で、被災地の現状をお伝えしていく番組です。
番組では、みなさまの声をメールで募集しています。 被災地の現状の他、被災地の方々への励ましの言葉などをお寄せください。
記事で、津田アナウンサーはこんな言葉から始めている。
「何でもかまいませんから、思いのたけを話してください」
そう被災者の方にお願いし、感じていることをスケッチブックに書いて、カメラの前で読みながら話をしてもらう。それが、NHK仙台局で平日の午後に放送している三十分番組『被災地からの声』です。
(中略)
「一日も早く家に帰りたい」「水道、電気、ガスが欲しい」「母の位牌が見つからない」「全員命拾いをしました。それが何よりです」
被災者の方々に、今一番言いたいことを率直に言っていただき、余計な編集をせずにありのままを放送することで被災地の現状を伝えたい。それが番組スタッフの信念であり、アナウンサーとして番組に携わる私の気持ちでもあります。
(中略)
「頑張れる人だけが、頑張ってください。無理のできない人は無理する必要はありません」と行ったこともあります。こういった発言はNHKらしくないと驚かれることも多いのですが、被災者の皆さんに伝えたい言葉を素直に話しているだけなのです。被災者でない方には、被災者が今感じていることをわかってほしいだけなのです。NHKのアナウンサーというより、宮城県で生まれ育った三十八歳の一人の被災者として、私はそう感じています。
震災発生時東京に向かう新幹線の中にいた津田氏は、その後那須の避難所で現状を知り、休暇をもらって故郷の石巻に行って、その被災の様子に呆然とする。
遊んだ思い出や育った町の風景すべてが、一瞬にしてゼロになったこの感覚は、味わった人でないとわからないでしょう。故郷のはずなのに、自分の知っている過去がどこにもないのです。
母校の石巻中学校からの中継をしようとして「生まれて初めて腰が抜け」、後輩に中継を代わってもらったこと、「被災地からの声」の担当になり、初日と二日目は被災者の心情に思い入れしてしまう余り涙が出てしまい、本番で自分が何を話したのか覚えていないこと、三日目に中学生の被災者が「みんなで力を合わせて頑張りましょう」と言ったのを聞いて、「仙台にいる私が弱音を吐いている場合ではない、引き受けた以上は辛さに耐えてしっかりやらねばと目が覚め」たことなどを率直に綴っている。
続きはぜひ原文を読んでほしい。
カメラの回っている前では決して言えない被災者の本音、美談としてまとめようとする在京キー局の報道への憤り、復興の度合いの格差が大きい中で「頑張って復興してください」と上から被災者を見下ろすようなコメントへの大きな違和感など、現地で日々被災者と膝を突き合わせて話しているからこそわかる本当の「思い」がこれでもかというくらい書かれている。
現地にいない私たちには、もちろんなかなか知りようのない姿ではある。しかし、こうしてそれを必死に届けようとしてくれる人がいる限り、私たちはそれを可能な限りそのまま受けとめ、少しでも善処していかねばなるまい。これから復興まで、長い長い道程を歩んでいかねばならないのだから、無理は長続きしない。手を打って、修正して、また手を打っていく。その繰り返しなのだ。
津田アナウンサーは記事をこう締めくくっている。
震災から時間が経過すると、被災した地域と全国との温度差は大きくなり、社会の感心も薄れていきます。生身の声を継続して放送することで、被災地から声をあげ続け、被災者に寄り添っていく。それがスタッフとしての私の義務であり、一被災者としての希望でもあります。
NHK仙台のみならず、河北新報などの現地メディアは今回の震災で「地域を隅々まで伝える」役割を精一杯果たしているように思う。彼らから届けられる声を受けとめ、私たちも被災者に寄り添い続けていこうとすること。それがすべての「基本」なのだと改めて感じさせられた記事であった。
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