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2011/01/18

映画「ソーシャル・ネットワーク」をソーシャルに見てきた

今や会員5億人を擁するSNS・Facebookの誕生を描いた映画「ソーシャル・ネットワーク」を見てきた。
しかも、ツイッターで集まった有志と「ソーシャル」に。

※以下内容に触れているため、未見の方はご注意を。

見た直後の個人的な感想としては、疾走感のある凝った作りの作品だな、ということ。
またITをかなり全面に押し出していて、冒頭から遠慮なくIT用語をガンガン使いながらハッキング&プログラミングをしていったり、あちこちにIT、特にWeb系テクノロジーの要素をふりまきながらストーリーが進んでいくところは、その筋の人達にはサービス満点、といった趣き。そして主人公のハンパないnerd(いわゆるコンピューターオタク)っぷり。

ただし、ストーリーの中心となるのはあくまで人間模様。共同創業者から2件訴訟を起こされる主人公マークの出席する証言ヒアリングとそこからの回想シーンを差し挟み、時間を行きつ戻りつしながら進む。ハーバードというエリートの頂点の集まる大学の中で始まる憧れ、嫉妬、憎悪、敵対心、裏切り等々ネガティブな感情が渦巻くドロドロした世界だ。Facebook創業者の映画ということでFacebookそのものについてのストーリーを期待するとまったく裏切られることになる。

ラストで意外なエピソードを入れるところは、さすがハリウッド映画。邦画だったらもっと後味悪く放置して終わりそうな展開だったから。
これは好みが分かれそうな作品だ、と、直後から感じた。

そしてツイッターで「『ソーシャル・ネットワーク』を見るオフ会やるけど来ませんか?」と呼びかけられて集まり、一緒に鑑賞した人達と終了後食事しながら感想を言い合う。全員ツイッターユーザーではあるけど、年代、職業様々なメンバーだ。
高校時代アメリカに留学していたという女子大生は、まさにFacebookをリアルに使っていた人で、貴重なアメリカでの使われ方の話が聞けた。曰く、

「一言で言うと、メールがわりの連絡手段だった」
「学校で真っ先に『Facebook使ってる?使わなきゃ!』と登録させられた」
「アメリカは学生は携帯を持っていないし、持っていてもメールはSMSだから長文は面倒で打たない。だからもっぱらFacebookに情報が集まってた」
「今のインターフェースはごちゃごちゃしていて好きじゃない。昔のシンプルなものが使いやすい」

とのこと。なるほど。

他の参加者からも出会い系としての印象が強いこと、日本は先にmixiがあったり、メーリングリストなどの文化があるの苦戦するのでは、というFacebookそのものへの論評から「あのシーンはどういう意味だったのか」という解釈を様々に言い合ったりと、一人で見ていたら考えなかったようないろんな考えを聞くことができてエキサイティングだった。「ソーシャル・ネットワーク」をまさにソーシャルに楽しんだ格好となった。

では他の人の感想はどうだったのだろう。

isologueの磯崎さんは「週刊isologue(第94号)フェイスブックは「バブル」なのか?(「映画に学ぶ」編)」という記事の中で

この映画、ベンチャー企業が気をつけるべき論点がてんこもりなので、ベンチャー企業(特にネット系)に関わっておられる方は、見に行かれると非常にタメになると思います。
また、いっしょに見に行ったうちの奥さん(ビジネスに詳しくもないし、フェイスブックも利用してない)も「おもしろかった!」と言ってましたので、映画としても楽しめるんではないかと思います。

という感想を書かれている。

一方、情報社会学の大家・公文俊平先生は辛口な感想をツイートされていた。

http://twitter.com/kshumpei/status/26611992949166080

ソーシャルネットワークみてきた。なんともひどい映画だつた。呆然。

http://twitter.com/kshumpei/status/26632628295704576

私が映画『ソーシャルネットワーク』にがっかりしたのは、「若き天才の野望」ではなく「若き負け犬たちの転落」をもっぱら描いていたからです。この映画は、本でいうとカークパトリック(名著)ではなくメズリック(???)のに近いですね。

http://twitter.com/kshumpei/status/26633748799823872

ザッカーバーグは仲間を蹴落とす天才なのでしょうか。ショーンの助言に唯々諾々と従うだけのオタクなのでしょうか。彼に密着取材して書いたカークパトリックの本から受ける印象とはずいぶん違いました。

http://twitter.com/kshumpei/status/26636445665988609

多分、メズリックだけでカークパトリックを読んでいなかったら、この映画にもそれなりに納得していたでしょう。米国の一流大学の学生生活の一面(だけですが)描かれているのもそれはそれで面白いし...でもフェースブックとザッカーバーグについて考えたければ、カークパトリックは必読ですね。

カークパトリックの著書をまだ翻訳される前に原書で読まれてとても大きな衝撃を受けていらした公文先生にとっては、たしかにこういう感想になるのは無理もないだろう。先生のおっしゃる通り、劇中でのマークの人物像はただの「世間知らずの精神的に幼いオタク」的な、あまり深みのない描かれ方という印象が強い。
8月に書かれた下記記事で、先生がまさにおっしゃっている通り、カークパトリック本を参照していない、ということが書かれている。

フェイスブックがフェイスブック映画に修正要求:Facebook tried to make "substantive" changes in Facebook Movie(Long Tail World:2010/08/10)

学寮でひとり寂しくしてるザッカーバーグが、ソーシャルネットワークのコードをガンガン書いて「友だち5億人」の王国をつくる、しかしその影では友だちを次から次へと裏切っていく、ああ、フェイスブックの「友だち」のなんと虚しいことよ、みたいな筋らしいのね。

これじゃいくらなんでも酷いということで、シェリル・サンドバーグ(Sheryl Sandberg)COOがルービンにデイビッド・カークパトリック(David Kirkpatrick)のFB本『The Facebook Effect』の内容も反映するようお願いしたが、それは実現しなかった。代わりに映画はFacebook創業史を取材ルポというより活劇風に描いた Ben Mezrich著『The Accidental Billionaires』、途中から経営を外されてザッカーバーグを訴えたFacebook共同ファウンダーEduardo Saverin氏のインタビューなどがベースとなっている。

「マーク・ザッカーバーグが突如、女の子や権力を手に入れるためFacebook作った人になっちゃうんだから狂ってるよ」(共同ファウンダーChris Hughes氏、NYタイムズの取材に答えて)

経営陣によると本当の創業物語はおっぱいもドラッグもない「もっとボアリング」なものらしい。


このように様々賛否両論ある本作だが、そういう意味でも今を知る旬の作品であるということは言えるだろう。
ゴールデングローブ賞では6部門ノミネートされ、作品賞、監督賞を含む4冠に輝き、オスカーのノミネートも充分期待できる。ネット、ベンチャービジネス、学生起業等々、今の時代を象徴するアイコンを散りばめた「物語」としてお楽しみいただくにはいい作品と言えるかもしれない。
私が「『ソーシャル・ネットワーク』、どうだった?」と聞かれたとしたら、正直こう答えるだろう。

「私は面白かった。でも人によって好みは分かれそう。もし心配だったらレイトショーやレディースデーとかの割引料金で見れる時に見るのがいいかもよ」

最後に余談をひとつ。
いくら映画内で「フェイスブック」「フェイスブック」と連呼されるからと言って、鑑賞後パンフレットを買おうとして「フェイスブックを」と言い、店員さんに「『ソーシャル・ネットワーク』ですね」と確認されてしまうという恥ずかしいことをしてしまったのはこの私。願わくばそんなうっかりさんが私一人でないことを祈りつつ。Enjoy!

参考リンク:
映画ソーシャル・ネットワーク を理解する用語集(公式サイト)

『ソーシャル・ネットワーク』製作の裏側(ニューズウイーク日本版)

宣誓証言では被告のマーク、証人、原告がすべて違う話をしているのが興味深かった。だからこの映画は、私の好きな『羅生門』のように複数の視点から構成しようと思ったんだ。

フェイスブック創設者のマーク・ザッカーバーグ、映画『ソーシャル・ネットワーク』にダメだし?(シネマトゥデイ)

フェイスブックを立ち上げたのは女の子たちにモテたいから、そしてエリートの仲間に入りたいから、という理由で描かれている。何かを作りたいから作った、という考えは、映画製作者たちには考えられなかったみたいだね」と、映画の中で描かれている、よりよい社会的地位を得るためという動機を否定。実際、ザッカーバーグは現在の恋人とフェイスブック開設以前から交際しており、映画のための演出となっているよう。

 一方で、「バッチリ合っているのは衣装だね。映画の中でキャストが着ているシャツやフリースは、実際僕が着ているものと同じだよ」と、衣装の出来栄えは完璧とのこと。

Facebookはどのように始まったのか--米国の大学カルチャーと創業者たち(CNET Japan)

当時ハーバード大学の学生だったMark Zuckerberg氏は2004年2月、「The Facebook(ザ・フェイスブック=当時はTheが付いていた)」を立ち上げた。Zuckerberg氏は、コンピュータ科学専攻の2年生で19歳だった。

 もともと米国の高校や大学では、学生間の交流を図るために、新入生の顔写真とプロフィールを掲載した「フェイスブック」と呼ばれる紙の名簿を作り配布する習慣がある。普通なら、そのオンライン版を作るのは大学側ということになるのだが、大学側がグズグズしている間にZuckerberg氏は、大学の寮の一室でプログラムを書きあげ、自腹でサーバを借りて独自のSNSをオープンしてしまったのだ。

 オンライン学生名簿と言っても、Facebookに登録するのは学生本人である。そのプロフィールにアップロードする写真も自前のものだ。登録にはハーバード大学のメールアドレス(Harvard.edu)が必要であり、また実名登録も条件とされていた。

新作映画ウラ話 『ソーシャル・ネットワーク』 デヴィッド・フィンチャー監督とカリスマ脚本家による、映画史上に残るトーキングムービー(2011/1/12更新)(msnエンタメ)

映画冒頭から驚くほどスピーディーなセリフ劇で始まる本作。通常、ハリウッド映画の脚本は、約120ページが平均といわれているが、アーロン・ソーキンによる本作の脚本は、162ページの大長編。それを、普通の映画で話すスピードでセリフを読んでみると、制作スタジオが希望していた上映時間を1時間も上回ることがわかった。そこで、デヴィッド・フィンチャー監督は、ソーキンの家にストップウォッチ持参で訪問。ソーキンは、監督の「このシーンは、1分以内に」という指示に合わせ、全ページのセリフの読むスピードを調節し、結果、上映2時間に収めたという。本作が持つ、テンポの良いセリフ回しは、まさにこのときに生まれたのだ。

【映画動員】草なぎ主演作と映画賞100冠超のFacebook秘話が初登場(livedoorニュース)

2位は映画賞を総なめにしているデヴィッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』(15日公開)。動員11万6309人、興収1億6093万8100円と、興収順では初登場1位だった。

The Social Network(Official Site)
#米オフィシャルサイトで、脚本をダウンロードできるようになっているとのこと。PDFで全164ページ。右上の「Screeplay」から。

映画「ソーシャル・ネットワーク」を観る前に知っておきたいこと(nanapi)
#若干ネタバレになる可能性もあるが、充分準備をしていきたいという方に。

1/20追記:
なんと公文先生から、この記事についてこんな光栄なご感想をいただきました。

http://twitter.com/kshumpei/status/27899835373854720

映画『ソーシャルネットワーク』についての@clioneさんの行き届いた論評 http://bit.ly/g9ZFZN にひたすら感嘆。

感謝感激です!!!


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