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2009/11/01

「ワークプレイスラーニング2009」@東京大学安田講堂に行ってきた

Wpl2009_1先日開催された「ワークプレイスラーニング2009」というカンファレンスに参加してきました。
こちらは東京大学の中原淳先生が中心になって主催された、「企業・組織における人材育成」の「明日」を提案するカンファレンスです。

カンファレンスの趣旨としてはこのようなことが書かれています。

今年でこのカンファレンスも3回目。ワークプレイスラーニング2007では「ミドルの学び」。ワークプレイスラーニング2008では「人材開発の新たな役割」というテーマで、約800名の方々にご参加いただき、ピア・ディスカッション、携帯電話を活用した質疑応答が行われ、新たな知の交流の場を産学共同でつくりだすことができました。

 今年度のテーマは、「成長をいざなう個と組織の関係」です。

 今、時代は急速に変化しています。従業員の能力向上や成長を、企業が「丸抱え」で支援する時代は終わりました。個人が主体的に自らの学習や成長をデザインする一方で、企業には、個人に成長する機会や場を創出することが求められています。

 同時に、企業は、もうひとつの課題にも取り組まなくてはなりません。ともすればアトム化・孤立化しやすい個を、いかに組織化するのかが問われるのです。

 ワークプレイスラーニング2009では、「個人と組織の関係」という古くて新しい課題を、参加者全員で考える機会を持ちたいと思います。現代のビジネス環境において、人材育成のあり方とはどのようにあるべきなのでしょうか。企業の人材開発部に求められることは何でしょうか。外部の民間教育ベンダーには「何」ができるでしょうか。本カンファレンスでは、「個人と組織の関係」という課題から派生する様々な問いについても探求を深めたいと思います。


会場は東京大学安田講堂。東大も、安田講堂も入るのは初めてだったので、少々お上りさん的高揚感も持ちながら到着。さすが歴史のある大学、クラシカルな雰囲気でステキです。

中原先生は近年ラーニング・バーの取り組みが有名で、最近日経新聞の夕刊でも「ミドルの学び場」というキーワードで取り上げられたりしていますが、私は先生関係のイベントは参加するのが初めてだったのでとても楽しみでした。

で、実際参加してどうだったか。

ひとことで言えば、すごかった。

どんなイベントだったのか。その様子はYoutubeにアップされているこちらの動画をまずはご覧いただけると、雰囲気がわかっていただけると思います。

これは「リアルタイムドキュメンテーション」として進行と同時に撮影・編集され、当日の最後に公開されたものです。これだけのものを当日に編集してこうやってYoutubeに上げられるという神戸芸術工科大学の曽和具之先生・柴田あすかさん・籾井雄太さん他スタッフの皆さまのその技術に感嘆。

事例発表、そこへの学問的立場からのコメントなど、ひとつひとつの要素はこれまで経験のあるものですが、その組み合わされ方、提供のされ方がとても新鮮で、産学連携というのはこうすると有機的になるんだ、と目からウロコの経験をさせていただきました。

このワークプレイスラーニング2009(以下WPL2009)は、よくある「聞く→聞く→聞く→帰る」というカンファレンスではありません。「聞く→考える→対話する→気づく(→講堂を出て考える)」という流れです。
企業からの事例発表とそこへのアカデミックな立場からの考察コメントのあと、周囲の参加者2~3人と必ずディスカッションタイムが入ります。

ディスカッションのポイントは

・主語は「わたし」
・経験談/主観大歓迎
・違っていたら丸儲け
・とりあえず判断は保留(勝ち負け・正誤はなし)

ということ。

そして、「事例は学習材であり、そのままマネしたり運用はできない」と明言されていたのがとてもありがたく、事例をさんざん聞いたあと「あれはあの会社だからできることだよね」「うちにはできないよね」と虚しくなる、よくある人事系のイベントのような時間の無駄感がないのは爽快でした。

3社からの事例が発表され、そのあと4名の先生(妹尾 大(東京工業大学)・・・経営学の立場から、松尾 睦(神戸大学)・・・心理学の立場から、長岡 健(産業能率大学)・・・社会学の立場から、中原 淳(東京大学)・・・教育学の立場から)からこれまでの研究知見と照らし合わせての解説・コメントが寄せられるのですが、浮世離れしたものではなく、現実の組織や人のあり方を押さえつつ、研究者としての補足と疑問の呈示が絶妙でした。社会科学の現実への関わり方のひとつの可能性を目の当たりにしたと感じています。

主体的な社員の学び・成長に対して人材育成部門が「主体的」にコミットするヒントとして「経験と繋がりのデザイン」というキーワードを上げられていました。
「経験のデザイン」は「個人が主体的に学習・成長するための経験を得る機会を人材育成部門がデザインする」こと、「繋がりのデザイン」は「個人が組織との望ましい関係をダイナミックに構築していくためのヒューマン・ネットワークを人材育成部門がデザインする」ことを挙げていて、「経験のデザイン」に関することをカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の柴田COOから、「繋がりのデザイン」はアサヒビール人事部の丸山部長からお話されていました。そして主体的な従業員の成長についてバンダイナムコホールディングスの紀伊マネージャーからお話されました。(詳細のプログラムについてはこちらをご参照ください)

事例発表のエッセンスを箇条書きにすると

■CCC 柴田氏
・0から1を生み出す、1をN倍化する
・「主体性」+「人と人とをつなぐ」
・絶対時間共有の法則
・目に見えないものを大切にする
・原点回帰!
・“制度”に支配されてはいけない
・自分の仕事は自分で決める

■アサヒビール 丸山氏
「よってたかってみんなで育てる」(ブラザー・シスター制度、トップメッセージ、シニアによるキャリアアドバイザー制度、ワイガヤ研修、人事異動、武者修行 等)
「金太郎ではなく桃太郎」
「みんなに愛されている社長」と言い切る社長愛、会社愛

■バンダイナムコ 紀伊氏
・「成長」は「育てられる」ではなく自ら育つ姿勢とその環境
・ちょっと上向きにいかないと現状維持できない。下に向かう引力が強くて、自分では維持しているつもりでも下がってしまう。人間は楽に流れる。
・混沌が人を成長させる
・混沌の源→いろんな人がいる→「同魂異才」の集団→相互の触発→成長
・知恵が出てくること、大人になること

先生方のコメントも様々興味深く知的好奇心を刺激されるものでしたが、特に印象に残ったキーワードを挙げると

・「主体性パラダイム」に潜むリスク→強制される主体性
・組織の垢をunlearnしてinnovationに結びつけられるのか?
・ブラザー・シスターは「教えたがり」に注意する必要があるのではないか
・本当に目指すべきは「成長」なのか?「成長」→既存モデルの量的拡大 「発展」→新規モデルへの不連続的移行 ではないか
・組織と個人の「成長観」のミスマッチが起こってないか?
個人→「会社が考えてくれる」 組織→「自主的に」
急激な変化はアノミーを生み出す

こうして呈示された事例とコメントを元に、周囲の人達と15分ほどディスカッションをするのですが、人材育成という共通の問題意識を既に持っているのと刺激的な問題提起をされているので、初対面でも対話が異常に盛り上がります。そうして自身の感想や意見を口に出して述べる事で、自分の中の考えを整理でき、相手の発言から自分とは違う視野からの見方を知ることができ、濃密な討議ができているのに我ながら驚きました。まさに「聞く→考える→対話する→気づく」の流れ。そしてそのあとの(→講堂を出て考える)は今こうしてブログを書く事で実施しているわけです。

キャリア支援という広い意味での人材育成という本業においても、また心理学研究というアカデミアに関わる立場としても、非常に示唆の多い場所でした。これからじっくり自分の中でリフレクションしながらこの経験を学習していきたいと思います。

また私はiPhoneを持っていたので節目にTwitterでつぶやいていましたが、ハッシュタグ「#wpl2009」とスライドで指定していただき(これもこの手の学術系イベントでは初めて)、他にも多くの方がTwitter中継をされていた模様。
Twitter Searchで「#wpl2009」で検索していただくとその様子をご覧いただけます。ご興味ある方、どうぞ。

参考リンク:
★他の参加者の感想ブログ記事
ワークプレイスラーニング2009に参加してきました。(サブロク)

ワークプレイスラーニング2009に参加しました(ブログ・フリスコ~就業規則と組織活性~)

ワークプレイスラーニング2009(マネジメント・キャリア・人事 ~ブログJ-center~)

人事は個々のミドルの成長を支援できていない!?(前川孝雄の"はたらく論")

ワークプレイスラーニング2009@東京大学(2009-10-30)(【フツサラ】 フツーのサラリーマンのためのラクしてトクする仕事術)
#多くの参加者ブログ記事へのリンクがまとめられています。

★中原先生のブログ記事
ワークプレイスラーニング2009が終わりました:ありがとうございました!

ワークプレイスラーニング2009・リアルタイムドキュメンテーション

リアルタイムドキュメンテーションとは、「今、この場でおこっている出来事を、リアルタイムで記録(ドキュメンテーション)し、振り返りに役立てる手法」です。神戸芸術工科大学の曽和先生、千葉工業大学の原田先生(去年、原田先生にはお願いしました)、同志社女子大学の上田先生などが、先駆者として、さまざまなワークショップで実践、研究をなさっています。

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コメント

WPL2009お疲れ様でした。
私のブログにリンク貼っていただいてありがとうございます。光栄です。
先ほど私のブログからもリンクを貼ろうと思って、間違ってトラバ送ってしまいました。。
既に記事からリンクいただいているのでトラバは無視していただいて問題ないです。

ちなみに私もどうでしょう大好きです。笑
今後ともどうぞよろしくお願いします。

投稿: じん | 2009/11/02 00:29

こんにちは!

リンクしていただきありがとうございます。
つぶやきともども、どうぞ宜しくお願い致します。

投稿: クワバラ | 2009/11/02 09:44

はじめまして!
リンクありがとうございました。

投稿: 【フツサラ】 | 2009/11/05 22:00

>じんさん

コメントをありがとうございます。
どうでしょう仲間でもあるなんて、こちらこそ光栄です。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

>クワバラさん

こちらこそコメントありがとうございます。つぶやき含めてどうぞよろしくお願いいたします。

>フツサラさん

こちらこそリンクをありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。

投稿: くりおね | 2009/11/05 23:44

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