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2008/10/13

PLAY 「The Diver」 NODA MAP at シアタートラム

The_diver世田谷パブリックシアターのシアタートラムにて、野田秀樹さん作・演出・出演の「The Diver(ザ・ダイバー)」を観てきた。

※以下内容について書いていますので、未見の方はご注意ください。

私にとって今年一番の最高傑作だ。

と言うより、ここ数年観たどんなお芝居よりも心を激しく動かされた。幕が閉じたあと言葉が出ない作品は久し振りだった。

その濃密さ、変幻自在の時間と空間、言葉と身体の表現の激しい応酬。人の心の深い深い深海に沈んでいく海士(あま)になったように、次から次へとさまざまなものが見えていき、そして去っていく。
まるで三間四方の能舞台の中で繰り広げられるような世界がそこにはあった。
なるほど、能楽の要素を現代劇に翻案して野田秀樹が上演するとこうなるんだろう、と納得。

そしてこれが英語での上演だったからこそ受け入れやすかったのかもしれない。
元ネタは確かに「源氏物語」の主に六条御息所中心のエピソード(夕顔、葵上)と能楽の「葵上」「海士」(観世流以外では「海人」)だが、そこにあの有名な現代の事件が横串となっていく。
そう、いわゆる「日野OL不倫放火殺人事件」だ。
事件から十数年余過ぎても気持ちをゆさぶるものを残すあの事件を扱うとなると、やはり日本語では生々しすぎる。

犯人の女性を夕顔に、六条に、相手の男性を光源氏になぞらえて進んでいく話は、最後には放火と中絶という二重の「殺人」への苦悩を明らかにし、絞首刑となったあと再び海に潜って大切な「jewel」をやっと手に入れる、という結末を迎える。まるでパンドラの箱に最後に残っていたもののように。

かのこさんも書かれていていたが、圧巻は源氏と葵上と六条(実際は男とその妻と女)が揃って登場し、運動会で妻と女が引き合わされたあと女が男の携帯にかけた電話から浮気を知るシーンだった。
男の携帯に妻が出た時点で女は電話をすぐ切るが、そこから妻は執拗にリダイヤルを繰り返す。執拗に、何度も何度も何度も。相手が出るとその都度「あなたは誰」と言って切る。
やがて自分の子どもを失った女の所にかかる電話で、「生きている子どもをお腹から掻きだすようなことしかできない女なのよあなたは」と妻は言い放ち、自分の大きなお腹をさする。

このセリフだけが日本語でそのまま言われたのは、おそらくこれが犯行の直接の引き金になったと言われているからだろう。実際はこんなことは言っていない、と被害者の妻はのちに新潮社の本「その時、殺しの手が動く―引き寄せた災、必然の9事件」の中で語っているが、犯人の女は「言われた」と思った言葉だった。

女を演ずるキャサリン・ハンターの卓越した演技力がなければ実現しない作品だ。声の使い分けも台詞回しも動きも、相当難易度の高いものを要求されているにも関わらず、呼吸するようにあたりまえのようにすべてを駆使して女としてそこに存在している素晴しさ。
加えて、ロンドンでは録音テープを使われたらしい音楽が、今回は舞台下手で田中傳左衛門さんたち囃子方の生演奏で聴けたのも圧倒的な臨場感と非現実感を作り出した。役者の演技との間合い、アンサンブルは緊張感を高め、哀しみを深め、シアタートラムの決して広くない空間を宇宙とつなげるような広がりを持たせた。

野田秀樹はパンフレットの中で、この物語は千年昔から連綿と続く「甘やかす女と甘やかされる男」の話だ、と言う。そういう意味では日本だけのことではなく、おそらく世界のどこでも起きている普遍的なテーマであると言えよう。ロンドンでも好評を博したのは当然だろう。

この空間を体験できたのは本当に幸運だった。心からそう思える舞台に出会えたことを感謝したい。

10/21追記:
ワキ方の森常好さんのブログに、「The Diver」を観に行くとの記事がありました。その中でキャサリン・ハンターさんについてこんな記述が。


主演のキャサリンハンターさんは
今年の春に能のお稽古をして、葵上等の能を見に来てくれて
能楽グッズもかなり買い込んでました

参考リンク:
かのこの劇場メモ~半券の余白: 「the Diver ザ・ダイバー」を観る(2回目/ポストトーク付き)

かのこの劇場メモ~半券の余白: 「the Diver ザ・ダイバー」を観る(ポストトーク付き)

the diver ロンドン公演(SOHO THEATRE ホームページ)

The Diverの内容について(ネタバレです)(ロンドン日和:2008/06/22)
#ロンドンでご覧になった方の劇評。舞台の様子が詳しく書かれています。

◆能楽「海人」の舞台の様子・あらすじなどはこちらに詳しいです。

亡き母の供養のため志度に下ってきた大臣・房前は、1人の海人に出会います。房前の従者が、水の底の満月を見るのに邪魔だから海草を刈るように命じると、海人は、昔、唐から興福寺(こうふくじ)に贈られた面向不背(めんこうふはい)の玉が竜宮に奪われたことを語り、房前の出生について教えます。房前が名乗り出ると海人は涙で袖を濡らし、竜宮から玉を取り返したありさまを見せます。そして自分が母であると告げ、手紙を渡し波の下へと消えてしまいます。房前らが不思議な思いで手紙をひらくと、母の字で、死して13年弔(とむら)う人もない自分を供養してほしいとありました。房前は寺で法華経を唱え、母を弔います。すると母が経の巻物を手に竜女の姿で現れ、感謝して舞を舞います。ありがたい経の功徳で母は成仏できました。以後、志度寺では毎年、法華経を唱える法要が行われるようになりました。

◆「夕顔」のあらすじ、詞章と現代語訳はこちらをご参照ください。

◆「葵上」舞台の様子・あらすじなどはこちらをどうぞ。「演出のポイント」で動画も見れます。

朱雀院(すざくいん)に仕える臣下が、光源氏の正妻である葵上の病の原因を突き止めるために、照日の巫女を左大臣邸に招きます。巫女が弾く梓の弓[神事などで魔除けに鳴らす弓]の音に引かれて、六条御息所の生霊が現れ、皇太子妃としての華やかな昔の暮らしをしのび、源氏の愛を失った恨みを綿々と述べます。ついには病床の葵上に打ちかかり、なおも恨みと我が身の嘆きを訴えると、葵上をあの世へ連れ去ろうと言って姿を消します。すると葵上の容態が急変し、今度は横川小聖が呼ばれ、祈祷が行われます。御息所は鬼女の姿となって再び現れ、小聖に立ち向かいますが、祈り伏せられてしまいます。高貴な身分で理性的な御息所の心は、葵上への嫉妬と恨みから生霊となり、ついには鬼の姿となります。恋の恨みと嫉妬という目に見えない人間の感情を、視覚的に表現している曲です。


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