BOOK 「フラット革命」 佐々木俊尚
今年もう何冊も本を出版されていて、最近も11月に「起業家2.0―次世代ベンチャー9組の物語」を発刊された、非常に活動的なライター・佐々木俊尚さんから夏に献本いただいていたのがこの「フラット革命」。
インターネット関連の書籍の装丁はともすると寒色系のクールなイメージのものが多かったりするのだが、この本はやわらかい色合いとフォント、そしてすっきりしたデザインが明るい未来を感じさせる。個人的には好みの装丁である。
題名から、フリードマンの「フラット化する世界」を思い出す方も多いだろう。フリードマンが提示した「インターネットが加速するビジネス世界のフラット化」とは別の角度から、日本社会の中で進む「システムと個人のフラット化」を、様々な事例を通してじっくり書き込んだのが「フラット革命」ではないかと感じた。
マスメディアと2ちゃんねる、出会い系サイト、mixi、Wikipedia、ブログ。もう当たり前になったこれらの「場」の中で起きている様々の出来事。それは一見脈絡がなく起きているように見えるが、ひとつの重低音が常に響いているように見える。それは「場の再構築」だ。たとえばメディアで言えば、これまで造り上げられていたマスメディアを頂点とするピラミッド構造が、ブログやSNSという「個人メディア」の登場によって加速度的に風穴を開けられ、崩れていき、新しい構造を模索せざるを得なくなっている。また個人が存在する「場」も、これまでの「職場」「家族」「友人」という枠組みに「ネット」という分類軸が加わって、友人ならば「リアルの友人」「ネットの友人」「リアル&ネットの友人」といった新しい分類が生まれている。IT技術の促進で、15年前にネットの世界を享受するのはパソコン通信を知っているマニア層だったのが、今では高校生がモバゲーを使い、大学生や社会人がmixiを使う、誰でもテレビを見るのとほとんど変わらない感覚でネットに「存在」することができるようになったのだ。
おそらくメディアの世界は、製造業が十数年前から直面している「多品種少量」へと移行していくことになるのだろう。それに合わせてビジネスモデルも変えていかなければ継続できなくなる。ただ、妙な「公」の「私」への介入さえ起きなければ、個人的にはそういう部分は正直あまり大きな興味はない。
私が興味深く感じるのは「居場所」の多様化、フラット化だ。本誌の目次で言えば「第二章 よるべなく漂流する人たち」「第三章 組み替えられる人間関係」といった部分に当たる。
「居場所」の多様化、フラット化とは、いい意味では個人として存在する「居場所」の可能性の広がり、旧来の枠組みからの容易な離脱、複数の「居場所」の確保、といったことを実現するが、それらは「たゆまぬ自助努力」と「情報リテラシー」「自己の尊厳を守るスキル保持」を前提としており、運悪くそれを持てないままフラット化に突入してしまった人達に見えるのは「闇」だろう。そういう意味では、第二章は「闇」を描き、第三章は「光」を描いたと言えるかもしれない。どうすれば「闇」にいる人達の存在をあぶりだし、「光」に戻ってこれるようにしていくかは、意図的に行っていかなければならないこれからの社会的課題だろう。
佐々木さんの文章は丁寧な取材に裏打ちされ、抑えた筆致でそこに起きていること、その裏に流れる空気などを丁寧に書かれている。私はその中に彼の「新たなソーシャルへの期待感」を感じる。
動き始めたフラット化は止められない。その中でどうやって新しいソーシャルなつながり、ソーシャルな価値観を構築していくか、それは私達ブロガーも充分参加可能な領域なのだ。
最後に、夏にいただいた本の書評を今頃アップしている理由を告白しておくと。
献本いただくなんて生まれて初めてで、これは何としてでもすぐに書評をアップせねば、と力みすぎて書けないまま月日が過ぎ、気がつけばもう年末。超豪華ゲストが勢揃いするOBIIミーティングに出席予定の私としては、さすがにこのまま年を越すのは佐々木さんに顔向けできない、ということでようやく書いた、という顛末。いや本当に申し訳ない。佐々木さん、ありがとうございました。もう一冊献本いただいた「3時間で「専門家」になる私の方法」もすぐに書かせていただきます。
教訓:書評は読んだらすぐに書こう
小学館 (2007/11)
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