BOOK 「純米酒を極める」 上原浩
この本では、ただただアルコール添加(アル添)酒を排斥すべきと主張するのではなく(米を溶かした液体で作るような「新技術」は論外として)、本来米と水と麹で作られる健康極まりない日本酒がなぜアルコールを添加するようになったのかという歴史、アル添のプラス点とマイナス点を紹介した上で、「日本酒」とはやはり米と水と麹だけを使い、並行複発酵という技術を使って作られたものを呼ぶべきで、そうでないものは「清酒」という名称で別のものとして表記してほしい、と書かれており、極めてまっとうな主張だと感じます。
純米酒への正しい理解のために、酒造りの材料や工程について非専門家でもわかるように書かれ、古来から続く伝統文化としての日本酒がこれ以上じり貧にならないよう酒造者、販売店は正しい知識と高い志を、消費者にも正しい知識と「いい酒を飲む」ことを求める本書は、日本酒に関わるすべての方に読んでいただきたい本です。(私が会長を拝命している「純米友の会」の必読図書といたしますので、会員の方どうぞよろしくね)
また、純米吟醸も燗をつけてさらにおいしくなる、ということは「蔵人」を読んで知っていたことではありましたが、今回さらに新たに知った日本酒の飲み方が「割り水をして飲む」というやり方。「日本酒を割るなんて」と眉をひそめられそうですが、もともと出荷時にアルコール度数調整のために水を加えて出荷しているとのこと。日本酒は毎日飲む食中酒としてはアルコール度数が高すぎるので、もっと下げてもいいというのが先生の主張で、しっかりした造りの純米酒なら少し割り水で濃度を薄めても味の調和は崩れず、燗にしても味切れが悪くならないものなのだそうです。これはぜひ試してみたいですね。本当は蔵の仕込み水で割るのがベスト、とのことですが、それはさすがに難しいので、わが家でお茶などに使っている新潟の「どっこん水」を使ってみることにしましょう。
先生お薦めの純米酒やいいお酒を飲ませてくれるお店も紹介してくださっています。あの「真菜板」さんもリストに入っていて感激。茅場町にあるという「五穀家日本橋店」さん、ぜひ行ってみたいです。
残念ながら上原浩先生は昨年鬼籍に入られたとのことですが、先生の志は純米酒を愛する人達の中に確実に引き継がれて、いつかきっと日本酒といえば純米酒、が常識になる時代が来ると信じています。微力ながら私も「酒は純米。燗ならなお良し。」を繰り返し繰り返し言い続け、「日本酒といえば純米酒」を普及したいと思います。
口絵に酒造工程を撮った写真が何点か載っています。どの写真もふだんは目にすることのない吟醸酒を造る場面の写真で非常に興味深いのですが、中でも土井酒造場の波瀬杜氏が発酵する醪(もろみ)の音に耳を傾ける写真には、その表情の真剣さと発酵する泡の美しさに胸を打たれました。
参考リンク:
上原先生のご冥福を祈ります(やまけんの出張食い倒れ日記:2006/05/04)
上原浩先生、死去。(Reo's Journal 麻生玲央ブログ:2006/05/17)
SSI最高技術顧問 上原浩先生のご逝去を悼む(料飲専門家団体連合会(FBO))
光文社 (2003/12/16)
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コメント
リンクありがとうございます。必読図書ですね!わかりましたさっそく探してみます。amazonレビューでも評価高いですね。
割り水、私も『蔵人』で知ってびっくりしました。日本酒って本当に様々な偏見に縛られてきたのですね。
投稿: あひる | 2007/05/14 20:43
>あひるさん
同じ記事にいろんなトラックバック送ってしまって申し訳ありません。この本のことはどうしてもお伝えしたかったもので。
おっしゃる通り、今まで何の疑問も持たずにいた日本酒の「正しい」飲み方が、実はただの思い込みだったということに驚くばかりです。本当はそれぞれの人が自由に楽しめるものだったんですね。
投稿: くりおね | 2007/05/15 08:55