「夏子の酒」はマンガもドラマもマイ最高傑作
尾瀬あきらさんの「夏子の酒」。それは私の日本酒好きの原点であり、私にとって日本酒に関する知識のよりどころ、バイブルと言える、大切な作品です。
そしてこの作品のすばらしいところは、尾瀬さん作の原作マンガはもちろん、ドラマも非常に丁寧に作られた傑作だったこと。
あひるさんがちょうど読み始めて、「『夏子の酒』が素晴らしすぎる件」というエントリでその感動を書いてくださっています。
夏子ちゃんのお兄さんがね、東京に戻る夏子ちゃんを見送るホームの端っこで、両手を広げて、走るような雲と青空、山々の緑を背景に、大声で夢を語るですよ。そのシーンだけで何だかとってもこう。
(´;ω;`)
泣いてるし。
いやもうまったくその通りなんですよ。私も初めて読んだ時、おんなじでした。
このシーンですね。
駅のホームで走り去る電車に向かって、病身のお兄さんが両手をいっぱいに広げて笑顔で叫ぶこの言葉。
「黄金色の稲穂がこう!
一面にバアーッとだぜ!」
いずれこの風景を実現するのに向かう夏子の奮闘が、ここから始まるんです。
そして、お話は幻の酒米「龍錦」を作るためには無農薬でなければダメだということから、自然と米作りに軸足が移っていくのですが。日本農業の暗部を次々と突きつけられる、正直読んでてつらいパートです。でもそこから逃げないで、本当においしいものを作ろうとする心がだんだんと通じていく過程。農家の皆さんだって、好きで農薬振ってるわけじゃなかったんですよね。単行本の1巻は1988年出版で、まだ産直とか無農薬とかが一般的ではなかった時代にこういう作品が描かれていたのは驚きでした。
一年目は種籾作り。そして二年目の収穫でようやく「龍錦」での仕込みに入っていきます。その過程でも、日本酒が米と水だけで作られているわけではない事実、なぜ普通に売られていた「日本酒」が二日酔いのする後味の悪いべたっとしたものだったのかが描かれていて、私はこの作品を読んで自分の舌がおかしくなかったことをようやく知りました。
農業と酒造業が置かれている状況、そしてそれを少しでも変えていこうとする人たちもいること。苦悩と希望。そのはざまで主人公夏子は成長していくのです。
ドラマ「夏子の酒」のgoo Wikipediaの紹介を引用します。
1994年1月12日から3月23日まで、フジテレビ系列で放送された。全11回、平均視聴率14.7%。テレビドラマでは、酒造りにリアリティを出すため、夏子が原料となるコメの育成を始めるシーンからスタートさせた。実はこのシーンは本格的に撮影に入る1年前の1993年にコメの産地新潟県で撮影されたものであり、スタッフ・キャスト共にいかにこのドラマの製作に意欲を見せていたかが分かる。また原作のモデルとなった久須美酒造でロケを行うなど、よりリアリティのある作品に仕上がっている。
そう、何がすばらしいと言うと、まるまる1年かけて米作りをきちんと撮影しているところなのです。切り貼りでなく、本当に現地の田んぼを使って。
長岡の花火といった季節のイベントもきちんと収録されていて、見ていて「あ、ここはあの駅前の公園だ」「ここはあの河川敷あたりかなあ」なんて予想しながら見るのが楽しみでした。
ドラマのキャストを同じくgoo Wikipediaから引用。以下の通りです。
* 佐伯夏子(和久井映見)-主人公。実家は新潟の佐伯酒造。
* 佐伯康男(中井貴一)-夏子の兄。志半ばで病に倒れる。
* 佐伯浩男(高松英郎)-夏子の父。
* 草壁渡(萩原聖人)-佐伯酒造従業員。原作では康男の大学時代の後輩。
* 荒木誠司(石黒賢)-ドラマのみのキャラクター。康男の大学の後輩。東京にいた夏子の面倒を何かと見ていた。
* 葵和子(磯野貴理子)-オリジナルキャラクター。
* 佐伯和子(若村麻由美)-康男の妻。東京出身。実家は定食屋。
* 橋本冴子(松下由樹)-夏子の友人。東京で働いていたが実家に連れ戻された。
* 山田信助(下条正巳)-佐伯酒造で30年来働く杜氏。吉川区 (上越市)(旧吉川町)出身。夏子は「じっちゃん」と呼ぶ。
* 宮川源平(山谷初男)-農業。既に稲作をやめてしまっていた(原作では隠居する決心をするも、夏子を見守るために思いとどまる)。龍錦を栽培するにあたって重要な役割を果たす。当初はハナ肇で撮影を進めていたが急逝したため、山谷で撮りなおされた。
* 内海英二(風間トオル) -吟醸「美泉」を造っている内海酒造の若社長。
原作では夏子に想いを寄せ、時にはアドバイスをするなど、重要な役割を担うが、ドラマでは造り酒屋の集会で会うほか、龍錦の酒ができた際に受け取るシーンに出るのみ。
下条正巳さんのじっちゃんが龍錦の3号酒を利いて「夏子、、、これか?この酒か?」と聞くシーンは、原作とは違う静かな演技でしたが、とても説得力がありました。ああ思い出すだけで涙が。
Wikipediaで指摘されているように、確かに米作りの側面は掘り下げ不足なのですが、そちらも入れて酒造りも、となると11回ではとても足りないわけでして。大河ドラマみたいに1年いただけるならもっときちんと描けたんでしょうけどね。
モデルになった蔵元・新潟の久須美酒造を見に行ったことがあります。(位置的にはこのあたり)ドラマのあとだったこともあり、実物を目の前にして感無量でした。本当にこの絵のまんまの風景がそこにあるんです。まるでそこから夏子が自転車で駆け出してきそうな。
ドラマはビデオ化されなかったようで、とても残念。フジテレビさん何とか再放送してくれないかなあ。
サントラはマーケットプレイスで見つけて入手しました。アコースティックで聞いててほっとする音に、龍錦が出穂(しゅっすい)した時の映像(稲の花って、あんなに可憐で美しいなんて!)や和久井映見演ずる夏子がデッキブラシで雑草取りをする真夏の田んぼなど、さまざまなシーンが目の内に蘇ります。もちろんこの記事もサントラを聴きながらキーボードを打っておりまする。
「夏子の酒」という作品を気に入って下さった方、ドラマをご覧になっていなくてもきっとイメージで楽しめます。よろしかったらお手許に一枚どうぞ。
また、「龍錦」のモデルになった「亀の尾」という酒米で造ったお酒はこちらの「亀の翁」です。なかなか入手できない幻のお酒ですが、運良く手に入った方は「夏子の酒」を思い浮かべながらお楽しみ下さい。
関連エントリ:
BOOK 「酒は風―『亀の翁』をつくる人びと」(2004/05/05)
COMIC 「奈津の蔵」(2004/01/18)
東芝EMI (1994/03/09)
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この記事へのコメントは終了しました。
コメント
リンク、TBありがとうございます!
もう読みながらがくんがくん頷いてしまいました。
>農業と酒造業が置かれている状況、そしてそれを少しでも変えていこうとする人たちもいること。
>苦悩と希望。そのはざまで主人公夏子は成長していくのです。
そう、そうなんですよね。ここがこの作品の根底にある、魅力の源流なんですよね。地味なお話だけれど本当に素晴らしい作品で、これが注目され、力を入れてドラマ化されたりしたことがまた嬉しいですね。
gooWikiのドラマ情報も嬉しいです!検索してみたけれど見つけられなかったので。松下由樹さんは好きですが、私としては冴子さんぽくはないような。。あと東京から戻ってきた事情が、ドラマでは原作と違ったスゴイことになっちゃってますね。
投稿: あひる | 2007/03/07 04:12
>あひるさん
こちらこそ、記事内でご紹介いただきありがとうございました。過分なまでのおほめまでいただき、恐縮しきりです。でもうれしいです。
派手さはないけどすばらしい、じっくり味わえば味わうほどそのおいしさに酔いしれる、まさに純米酒のような滋味あふれる作品だと思っています。
冴子役は確かに微妙なキャスティングでしたね。松下由樹さんも悪くはないんですが、原作のトーンとは少し違うような感じで。
投稿: くりおね | 2007/03/08 13:31