STAGE 「新作能・紅天女」 ル・テアトル銀座
ホールでの演能を観るのは初めてだったので、どんな風なのか期待と不安が正直半々の状態で着席。かなり前方の席で、役者さんの表情もよく見えそう。
観客は年齢層やや高めで、原作のファンが四分の三、能楽ファンが四分の一といった雰囲気。(両方の私は珍しい存在かもしれない。)男性も意外と多い。
舞台装置は、当日地謡として舞台にいらした能楽師・柴田稔さんのブログエントリ「「紅天女」 “ル テアトル銀座 ” 初日!」の写真にあるような様子だった。
中央に梅の木の作り物、そして上手前段に囃子方、後段に地謡が並ぶ雛壇(?)。バックにうすいブルーの証明。
三間四方の能舞台とはかなり違った空間になりそうな予感。
とは言え柴田さんのブログ経由でいろいろと事前知識はあったので、そう驚くこともなく進んでいく。
冒頭月影千草が下手から登場。「誰じゃ、私を呼び覚ますのは誰じゃ」で始まる紅天女の台詞を読みあげ、二人の若い女優がこの役を巡って壮絶な戦いを繰り広げていることを伝える途中から囃子が入り、月影千草が退場すると入れ替わって狂言方が登場。赤くまがまがしい星が鈍く輝き、戦で世は荒れ地震など天災も続くことを伝える。
そしてワキ方が僧として登場し、仏師・一真と梅の精・阿古夜(あこや)の物語が始まった。
ガラスの仮面の劇中劇・「紅天女」をご存じない方のために、原作者・美内すずえさんの公式ウェブサイト「新作能・紅天女」ページからあらすじをご紹介。
南北朝の頃、戦乱の世を憂えていた北朝・京都の帝は7日7夜同じ夢を見る。
美しい天女が現れ、告げた。
「わが姿を仏像に彫って祀れば、世は平安になるだろう」。
帝の命で一人の男に白羽の矢が立つ。 西のはずれの荒寺に住むもと野盗。
子供の頃、仏師のもとに弟子入りしていたことはあるが、もとよりそんなだいそれた仏像など彫れるわけもなく、悩んでいたところへ一人の法師が現れる。
「千年の梅の木を探し、それで彫ればまこと魂の籠もる天女像が彫れるだろう」
そして南の方角を指差した。
男は北朝の京都から、敵対する南朝の吉野へ。
迷い込んだ神秘の梅の谷。
そこで男は美しい一人の乙女と出会う。
その乙女こそ千年の梅の木の精の化身だった…。
仏を彫るよう命じられたのが一真、千年の梅の木の精の化身が阿古夜。
二人は「ひきさかれたふたつの魂がふたたび出会った。私はおまえ、おまえは私。」と激しく求めあい、愛し合うのだが、やがて運命に引き裂かれ、とうとう梅の木を倒さねばならない時が来る。
その前に間(あい)狂言が入り、人間の都合で山をこわし温度を変えたことで洪水や津波が起きたと嘆く。
そしていよいよ梅の木を切ろうとする一真。しかし愛する阿古夜が宿ると知っていてどうして切れようか。そこに阿古夜の声が響き、「おまえしか私を切れるものはおらぬ」と。
ためらい最後は慟哭しながら梅の木に斧を入れる一真。
すると空から紅い梅の花びらがひらひらと雪のように舞い降り、天女の姿となった阿古夜が祈りの舞を舞うのだった。
やがて天女は消え、一真も去り、残るのはただ梅の花びらだけ。
シテ・紅天女役は梅若六郎さん、ワキ・一真役は福王和幸さん。お二人とも素晴らしかった。クライマックスの梅の木を切るところは一真の背中で泣け、天女の舞はその気高さと真摯な祈りにノックアウト。ストレートに、心に響いてきた。
囃子方も気持ちよくテンポを進め、地謡含め一体となって「紅天女」の世界を作り上げ、まるで「梅の里」がそこにあるかのようだった。
能のミニマムな表現でこそ再現できた舞台なのだと思う。おそらく観客はそれぞれ思い思いの「梅の里」を思い浮かべながら観ていただろう。
そんな中で、たとえば月影千草の台詞で唐突に出てくる「環境問題」といった文言は正直興ざめだった。間狂言にも語らせていたが、せっかく能楽という表現手法を使っているのだし、こんなストレートな物言いは避けることはできなかっただろうか。確かに「紅天女」は自然への畏怖を扱ってはいるが、環境問題を訴える芝居ではなかったはず。そこのところがちぐはぐだったのが残念だ。
ホールでの能という点では、普段使わない照明や演出効果(梅の花びらを散らすなど)が効果的に使われていて楽しめた。これはこれでまた「あり」だと思う。
ともあれ、マンガより早く「紅天女」のラストを見てしまったことになる。実際はどうなるのか。それ以前に私たちが生きてるうちにマヤと亜弓のどちらが紅天女を勝ち取るのか果たして決着がつくのか、そちらが非常に心配である。
関連リンク:
能楽師・柴田稔Blog カテゴリ・紅天女
#成田美名子さんもコメント欄に登場、漫画の世界を良く知る立場でコメントを寄せられています。
また朝日新聞に掲載された多田富雄さんの批評、大阪公演など、「新作能・紅天女」上演内容についての記事がかなり充実しています。
新作能「紅天女」公演が好評のうちに終了(日本芸術文化振興会)
#国立能楽堂で上演された初演の記事。
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