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2006/04/09

COMIC 「花よりも花の如く」第四巻 成田美名子

成田美名子さんの能マンガ「花よりも花の如く」第四巻を発売日に入手。いつものように何度も何度も読み返す。

発売アナウンスのエントリにも書いたように、収録内容は憲人のニューヨーク公演を描いた「光る軌跡」と、楽(がく)と直角(なおずみ)内弟子二人の「軽くヤバい」間柄について描いた「天気晴朗なれど波高し」。
「光る軌跡」での作品は「恋重荷」、「天気晴朗なれど波高し」では「杜若(かきつばた)」。

※以下内容に触れていますので、未読の方はご注意下さい。

ニューヨーク公演で憲人がつとめる「恋重荷」の女御役は、難しい曲の難しい役と言われており、彼女の行動に納得がいかない憲人は役作りに悩む。この女御役を考えることを通して、差別意識や偏見、一方フェアであたたかい態度などをさまざまな出会いから感じながら、最後は左右十郎先生の演技の変化も相乗して「愚かな自分をまだ愛してくれる相手への感謝」を込めた演技ができたのだと感じた。

四巻の中で一番印象的だったのが、ニューヨークのホテルでの楽と憲人のやりとり。まるで白人のような白い肌と生まれつきの茶色い髪という人と違った外見を持ち、ずっと差別的な視線の中生きてきた楽が、「思い」を感じる体質というさらに「人と違う」部分を隠していたい、と憲人に話し、一度は腹を立てた憲人が楽に詫びて二人で話をするシーン。

「相手の立場からも考えることが必要じゃないか」と憲人が言ったのに対して「髪を染めろということですか」と楽が訊く。憲人は「いや、別にどうでもいい」と答え、「どうでもいい」とふっとなげやりになる楽に対し、憲人はこう言う。

だってさ、茶髪でも黒髪でも
あなたはあなたでしょ?

楽は驚いたような表情で、ただだまって憲人を見つめるだけだったが、おそらく一番言ってほしい言葉だったのではないかと思う。
ありのまま、そのままの自分を受け入れてもらえるうれしさ。安心感。やっと地面に足をつけて歩けたような、安定感。
それを与えてくれる人が間違いなくいると感じられる時、きっと人は大きく変わって行ける。

「天気晴朗なれど波高し」の中でピカ一の気配りを見せ、ゆっくりと周囲の信頼をかちとった楽の姿が私はとてもうれしかった。そしてそれは憲人との師弟関係が大きく影響したのだと思う。
思い返せば、楽が入門してきた当時は憲人は気に入りの弟弟子ではあったけど、まだ楽のことをそれほど信頼しているわけでもなかった。二巻の「とうとうたらり たらりら」では楽が真剣に自分をサポートするのは左右十郎先生のためだから、と勝手に納得していて、その話の最後でやっと「あっぱれな敵」として楽の自分への信頼と尊敬を知るのだった。
二人の関係そのものも成長していき、その中で二人ともさらに成長する。なんだかうらやましい関係だと思う。

小ネタとしてはカクテルグラスのバック入り「マルガリータ!」と「アイハヴナイスショッピング!」がツボ。
それから擬音語の違いで囃子方の小鼓の音が「POM POM」掛け声が「HO HO」、大鼓の音が「KAAAAN」掛け声が「HONNYOHHH」、また足拍子が「WHAM WHAM BABANG!」となるのではないか、と想像しているのが「なるほど!」と。着物の絵とのミスマッチぶりがかなりいい感じ。

インバネス コート (トンビ) 〔ウール綾無地〕また、囃子方の市佑先生のインバネス・コート(左写真のようなコート)姿は、紳士萌えの私としてはかなりポイントが高かった。その時の市佑先生と楽の心が通じるエピソード含めて、好きなシーン。


成田美名子さんはこの巻収録の話を描かれている時は「メロディ」本誌でしばらく休載されていた。お父さまが入院されたため、青森に帰って看病していらしたのだと言う。単行本再録された本誌掲載のごあいさつメッセージによると、お父さまは昨年8月末に他界されたとのことだった。「花よりも花の如く」の題字や謡の毛筆文字はお父さまが書かれており、「もう書いてもらえません」という言葉を読んでとても切なくなった。なお今後は家族親族ご一同で書かれる予定とのこと。あの毛筆文字も能の世界を表現するのに非常に重要なので、勝手ながら何とか今後とも続けていただければ。

最後に、成田美名子さんのお父さまのご冥福を心からお祈りします。

関連エントリ:
COMIC 「花よりも花の如く」第三巻 成田美名子(2005/02/07)

COMIC 「花よりも花の如く」 成田美名子(2004/05/13)

8/30・31の「BS マンガ夜話 THE・少女マンガ」で「愛のアランフェス」と「CIPHER」を特集(2005/08/14)※4/13追記

花よりも花の如く 4 (4)
成田 美名子
白泉社 (2006/04/05)

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コメント

リンク・TBさせて頂きました。今回も素晴らしかったですねえ(惚)。

>「どうでもいい」とふっとなげやりになる楽
うん、あそこ良かったですね。細かい描写だなあと思いました。

小ネタではくりおねさんが挙げられたのの他に、「かたつむりの通った跡のような」のとこが吹きました(^△^)

投稿: あひる | 2006/04/11 03:14

>あひるさん
コメント&トラックバックをありがとうございます。
本当に、今回も素敵でした。

>「かたつむりの通った跡のような」
この時の憲人のバックの妙に迫力あるかたつむりと、「憲人さんが舞い舞いだからです」という楽の切り返しがなかなか面白かったですね。

早くも次がとても楽しみです。ファンって貪欲(笑)。

投稿: くりおね | 2006/04/11 23:54

いつも素敵な紹介記事を楽しませていただいています。私もコミックスでしか読めないので、お父様の件を初めて知りました。ご冥福をお祈りいたします。

もう一つショックだったのが、昨年8月にNHK-BS2で成田美名子さんの特集があったという話。BSこだわり館 「THE・少女マンガ!」で放送された下記内容ですが、これを見逃したのは本当に残念です。
http://oshiete1.goo.ne.jp/kotaeru.php3?q=1622687

この番組は8月31日放送でお父様の他界と重なります。慶事と弔事が同時に起こる人生の無常さを痛感しました。

投稿: 荻野達也 | 2006/04/13 01:43

>荻野達也さん
コメントをありがとうございます。読んでいていただけると思うととても励みになってうれしいです。
単行本で「8月末」という時期を見た時、私も「あのBSの番組の放映時期だ」と思いました。
一応エントリでピックアップしていたので無事見る事ができましたが、番組の中でお父さまの事もお話しされていて、まさかあれが看病中の撮影だったとは、と単行本を読んで驚いた次第です。短いシーンでしたが、親子の情愛をとても感じて印象的でした。
(番組についての該当エントリは本文に追記で書いておきますね。)

投稿: くりおね | 2006/04/13 23:44

はじめまして。先にコメントありがとうございました。
実は「trackback能・狂言」を通じて、何度か拝見したことは
あったので、今回同じ話題について書かれていると思い、
TBさせていただきました。

しかし、憲人と楽の関係性など、
細かく読み込まれてらっしゃいますね~。
ゆっくりと周囲の信頼を勝ち得て行く楽、
なんだか応援したくなってしまいますよね。

投稿: 柏木ゆげひ | 2006/04/20 00:36

>柏木ゆげひさん
はじめまして、くりおねと申します。
こちらこそ、トラックバックとコメントをいただきありがとうございました。
私も「trackback能・狂言」経由で時々記事を拝見しています。

成田さんのお話は丁寧に描かれているので、人間同志の関わり方がとてもよく見えてくるんですよね。そこが好きです。
楽ちゃんの成長をこれからも楽しみにしています。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

投稿: くりおね | 2006/04/23 13:07

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