MOVIE 「ミュンヘン」
アカデミー賞5部門ノミネートのスピルバーグ監督作品「ミュンヘン」。幸運にも試写会に当選し、公開前に観ることができた。
※以下内容に触れていますので、未見の方はご注意下さい。
概要を「all cinema onlinme」の「ミュンヘン」から引用すると。
1972年9月5日未明、ミュンヘン・オリンピック開催中、武装したパレスチナのテロリスト集団“黒い九月”がイスラエルの選手村を襲撃、最終的にイスラエル選手団の11名が犠牲となる悲劇が起きた。これを受けてイスラエル政府は犠牲者数と同じ11名のパレスチナ幹部の暗殺を決定、諜報機関“モサド”の精鋭5人による暗殺チームを秘密裏に組織する。チームのリーダーに抜擢されたアヴナーは祖国と愛する家族のため、車輌のスペシャリスト、スティーヴ、後処理専門のカール、爆弾製造のロバート、文書偽造を務めるハンスの4人の仲間と共に、ヨーロッパ中に点在するターゲットを確実に仕留めるべく冷酷な任務の遂行にあたるのだが…。
私自身はこの事件はまったく記憶がなく、使用されているニュース映像に「ああ、これは本当にあったことなんだ」と思いながら、これから主人公に起きていく悲劇を予感し、憂鬱な気持ちになる。
イスラエルの諜報機関・モサドの一員として、しかし任務遂行に当たっては「モサドとは何の関係もない、存在しない人物」として、報復を命令される主人公アヴナーを演じるのがエリック・バナ。対象者の名前だけを渡され、初対面の他の4人の仲間と共に、ターゲットの居場所をさがすところから始める。そのための情報屋との接触。手作りの武器。一人目、二人目の殺害の成功。しかし当初ターゲット人物のみに留めていた被害が第三者にも拡大し始め、彼ら自身が狙われるようになるところから、歯車が狂い始めてくる。
殺しても、殺しても、後任者が来るだけ。自分達の仕事に本当に終わりはあるのか。やがて仲間が一人、二人と消えていき、アヴナーの精神状態は限界近くまで追い詰められる。
ようやく任務から解放されても、彼の苦しみは止まらない。
自分がやっていることは、正しかったのか。
本当に、これでよかったのか。
答えのない苦しみ。誰も彼の魂を救うことはできない。彼自身も、モサドに「殺された」かのように。
エリック・バナの哀しみをたたえた眼はこの役にぴったり。悩み苦しむ姿がこんなに似合う人も珍しい。
自宅に電話をして産まれた子供の声を聴き、思わず泣き崩れ嗚咽するシーンは忘れられない。
憎しみの連鎖、しかもそれは増幅する。そしてエンドレス。今も続く。
答えのない現実をあえてそのままスピルバーグは私たちの目の前に放り投げた。爆破されるとはどういうことか。狙撃されるとはどういうことか。ていねいに、しかもわかりやすく。ホテルのバーで女に誘いをかけられるシーンや、クライマックスでの「死を意識すると生を確かめたくなる」かのような表現は、個人的には少々「わかりやすすぎ」と思ったりもしたが。
ささやかな救いは、フランス人情報屋「パパ」とアヴナーとの関わり。金と機密保持がすべての世界で、わずかながらでも任務を超えた「つながり」を持っていたのでは、と感じられた。
それにしても、国家とは、民族とは一体何なのか。
無知を晒して恐縮だが、私は未だにパレスチナ問題の「大元」が何なのか、そこからどうこじれてきたのか、実はわかっていない。なぜイスラエルがこんなに憎まれるのか。なぜ米英はイスラエルを支持するのか、等々。マスコミでの報道しか知らない状態では、あまりに長い時間をかけて複雑になってしまっているように思え、考えたり情報収集すること自体を正直避けていたジャンルだ。
しかしこの映画を観てしまった以上、このまま無知でい続けるわけにもいかない、そう思わせる作品だった。少しずつでいい、ひもといていこう。アンテナを上げていこう。今はそう思う。
参考リンク:
「ミュンヘン」(anyway, life goes on)
#「救いのないラストが、救い」だというモリタミホさんの言葉に、私も同感。
ミュンヘンオリンピックイスラエル選手団人質虐殺事件( パックス●ジャパニカーナ)
#映画の元になった事件について。
Wikipedia「イスラエル」
・原作本
「標的(ターゲット)は11人―モサド暗殺チームの記録」
新潮社 (1986/07)




2/26追記:
「ブログキャスター」でも原稿を書かれていたカトラーさんのエントリ「映画「ミュンヘン」が語りかけるもの」がアップされた。相変わらず広い知識と深い洞察で、映画本編に負けず劣らず重厚だ。
「生身の人間というものが、テロに対していかにもろく、簡単に殺されてしまうものかということがリアルな描写によって伝わってくる。」といったあたり、思っていても書けなかったディテールの意味をことごとく丁寧に書かれていて、さすが。
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