PLAY 「ベガーズ・オペラ」(日生劇場)
題名は「ベガーズ(beggars)」、つまり「乞食」のオペラという意味。詩人のトム(橋本さとし)主催で乞食達が劇場を借り受け上演する一夜限りの芝居をその観客としてかいま見る、という趣向。そのためか、ステージ上両サイドにも客席が用意されており、劇中役者達に話しかけられ、いじられるというおいしい座席となっていた。ただ、見るからに固そうな座席だったので、お尻や腰が痛くなりそうではあったが。
舞台の雰囲気などは@nifty:シアターフォーラムの記事「ミュージカルはここから始まった『ベガーズ・オペラ』公開舞台稽古」の写真をご覧いただくとして、個人的な感想を少々。
登場時はやたらさわやかに愛を語る内野さん演じるマクヒースに「これだけの人?」と物足りなく感じていたが、物語が進むにつれ、その本性が出てきてがぜん面白くなる。
なにせ根っからの女好き。一人の女ではとうてい満足できず、二枚舌三枚舌も平気で狙った獲物を仕留め、そして次の獲物に移る。ただ、今回はマクヒースも落とした獲物が悪かった。よりによって、盗品売買のかたわら密告で荒稼ぎをするビーチャム(高嶋正宏)の娘ポリー(笹本玲奈)に手を出し、結婚の口約束までしてしまったことが発覚。ビーチャムはここを縁の限りと、マクヒースを悪徳看守(村井国夫)に密告。しかし看守の娘(島田歌穂)はマクヒースと以前恋仲で、子供までなしている。さて、この騒動にはどう落し前がつけられるのか。
女にしてみればとんでもないろくでなし、なのに魅力的なマクヒースを内野さんがとても生き生きと演じており、舞台に疾走感を生んでいた。まだ女たらしだった時の「ふたりっ子」の森山さんをふと思い出したりして。また高嶋・村井の悪役コンビも猜疑心に満ちた堂々たる悪っぷりがいい。
だまされても想いを貫こうとする世間知らずで一途なポリーを笹本さんが可憐に歌い、自分は愛されていないとわかっていても尽くさずにはいられない哀しい女心を島田さんが情感たっぷりに歌う。ヒロイン二人の歌合戦はなかなか見応えがあった。
詩人のトム役の橋本さとしさんは舞台では初見だったが、舞台映えする体格と声の良さ、動きの機敏さが魅力的。ラストでごねて舞台外で島田さんと言い争う様子はおかしかった。
少々苦言を呈すると、かのこさんもエントリ「「ベガーズ・オペラ」を観る(3回目)」で書かれていたが、社会風刺劇でラストにそれをストレートに言うのはいくら何でもどうか、と思う。そこまでの描写で充分に表現されていたと私は感じたが、ああやって言葉にされるとかえって興ざめというもの。
また、幕間に客席にキャストが来て歌ったり、出入り口で出迎えしていたり(村井国夫さんが握手していたりした)
という趣向は、一体感を増すという意味で楽しめていいと思うが、差し入れを舞台でやりとりするのはちょっとやりすぎではないか。「内輪受け」的で、見ていてあまり好ましいとは思えなかった。
パンフレットはキャストが18世紀のイギリス・ロンドン社会についてさまざまに調べた「ベガーズ・セミナー」レポートが載っていて、なかなかの情報量。これを読むと18世紀のロンドンはお世辞にも住みよい都市とは言えず、下層階級は長生きできない仕組みになっていたことがよくわかる。
魅力的なキャストの確実な演技と表現力で最後までそこそこ楽しみながら観ることができたが、何度も足を運びたくなるかというと、正直一回で充分だと個人的には思った。
おまけ。
三回目のアンコールでステージサイド席の人達が踊りの輪に連れ出され、内野さんと手をつないで踊っていた女性の一人が涙目になっていたのが見えた。きっと大ファンなのだろう。その気持ち、わかるような気がする。彼女にとっては一生忘れられない舞台になったことと思う。
参考リンク:
「かのこの劇場メモ」さんのベガーズ・オペラシリーズ(?)
読売新聞の劇評
[評]ベガーズ・オペラ(東宝)(YOMIURI ON-LINE:2006/01/11)
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