BOOK 「キャリアの常識の嘘」金井壽宏・高橋俊介
金井壽宏氏と高橋俊介氏の共著「キャリアの常識の嘘」は、日本でキャリア論と言えば必ず名前が出てくる二人の著者によるもの。
とは言え大上段に構えて「あるべき論」を語るものではなく、よくある質問に二人で答えていきながら世間一般で「キャリアの『常識』」とされている(と思われる)事柄についてひとつずつ考えるヒントを示している。そういう意味でどこかで見た発言やエピソードが正直かなり多いが、シンプルにまとまっているので、キャリアについての本を買ってみたいけどどれを選んだら、と迷っている人にはまずお薦めしたい。二人の著者の超入門編として読むのにもよし。
とは言え、書いてあることは実は価値観や生き方の根本に触れてくることが多く、それはキャリアというものがそういうものだから当然なのだが、決してこれから働くことを考える若い人たちだけではなく、転機を迎えている人や人生折り返し地点にいる人たちが改めて「そういえば自分はこれからどうやって働いて生きていくんだろう」なんてことを考えたりするのにも、いいガイダンスとなるだろう。
掲載されている質問は次の通り。
Q1 キャリアは計画しデザインするものだろうか
Q2 職種が自分に合うことが重要だろうか
Q3 流されるようなキャリアはだめなのだろうか
Q4 変化に適応することが成長だろうか
Q5 キャリアを築くにはわがままが必要だろうか
Q6 よいキャリアの条件とは何か
Q7 キャリアの節目はどうマネジメントすればよいか
Q8 夢や目標があるから頑張れるのか
Q9 キャリアには一貫性が必要か
Q10 キャリアに勝ち負けはあるのか
Q11 過去のキャリアから何を学ぶべきか
Q12 キャリアは一人で作るものだろうか
Q13 好きなことをやっていればいいのか
Q14 成長や発達はどうすれば継続できるのか
Q15 リーダーはいかにして成長すべきか
Q16 プロフェッショナルに求められるものとは
Q17 キャリアにとって忠誠心はプラスになるか
Q18 部下の育成は上司が計画し実行すべきか
Q19 仕事とプライベートははっきり区別すべきか
Q20 キャリアにおいてお金は必要か
唯一の正解が書いてあるわけでなく、当然「こうすれば必ずうまくいく」なんていうhow toもない。
こういう切り口で整理してみたらどうだろう、と二人の意見を提示している。
高橋氏は首尾一貫して「自分の動機は何なのかをきちんと知っておこう」と言っている。
「動機」について少し詳しく触れているところから引用すると。
---------------------------------
ここで言う動機とは、自分の内側から沸き上がってきて、その人を突き動かすドライブのこと。私が分類する代表的な動機は、次の三つである。
1.上昇系動機(影響欲、支配欲、達成欲、競争心、賞賛欲など)
2.人間関係系動機(社交欲、感謝欲、理解欲、主張欲など)
3.プロセス系動機(自己管理欲、抽象概念指向、切迫性など)
(中略)
ただし、強い動機だけに固執すればいいというわけではない。上昇系動機の強い人がそれにばかりこだわると、時に怒りや憎しみというネガティブサイドに落ちて、「スターウォーズ」のダースベイダーのようになってしまいかねない。
[「Q6 よいキャリアの条件とは何か」より抜粋]
----------------------------------
そして動機だけでなく価値観の一致があると、それはよいキャリアになるのではないか、というのが高橋氏の仮説。どのような価値を社会やお客様にもたらしているのか、ということだ。「好き」を仕事に、というだけではやりがいは生まれにくい、と。
金井氏の言葉で印象的だったのは、「Q10 キャリアに勝ち負けはあるのか」で書いていたこの言葉。
----------------------------------
節目をくぐるたびに一皮むける経験を積んで成長していく人こそが、私の抱く勝ち組のイメージなのである。そして、おそらく他の人に対してでなく、過去の自分にいつも勝っていく人だろう。言葉としては勝ち組という言い方そのものが響きとして、競争、誰かを蹴落とすことを前提にしているのでよろしくない。
----------------------------------
あとは中年期の発達課題として「世代継承性」を挙げていたのも印象深い。
単純な机上の理論ではなく、多くのヒアリングやアンケート等のデータをもとに二人が得たエッセンスをかみくだいて伝えようとしており、ふと立ち止まった時ぱらぱらめくってみると、ヒントが見つかりそうな一冊。お手元にぜひ。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- BOOK 「冠婚葬祭入門」 塩月弥栄子著(2016.07.21)
- BOOK 「気仙沼ニッティング物語―いいものを編む会社―」 御手洗珠子著(2016.03.05)
- ラグビー日本代表SH田中史朗選手「負けるぐらいなら、嫌われる」出版記念サイン本お渡し&握手会に行ってきました(2016.02.01)
- Sports Graphic Number 891号 特集 日本ラグビー新世紀 桜の未来。(2015.12.03)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
金井先生あいかわらず人気ですね。昨年、なんと朝の山手線でばったりであって、お互い「ワールド イズ スモール!」なんてことになっちゃいました。
投稿: 大西宏 | 2006/01/18 16:43
>大西宏さん
わあ、金井先生ともお知り合いなんですね。もう私の周りでも大人気ですよ。機会があったら今度ぜひご紹介してくださーい!
投稿: くりおね | 2006/01/19 00:01