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2005/08/11

BOOK「子どもがニートになったなら」玄田有史・小杉礼子

ニート問題と言えば名前が出てくる、今や「ニートの専門家」となってしまった感のある玄田さんと小杉さんの共著「子どもがニートになったなら」。(目次はこちら

2004年の秋(11月17日)に開催されたイベント「労働政策フォーラム ニート ― 若年無業者の実情と支援策のあり方を考える ― 」を元にして企画されたものだとまえがきで書かれている。(フォーラムの模様は労働政策研究・研修機構(JILPT)のウェブサイトで見ることができるので、興味のある方はこちらも参照いただければ。)
フォーラムで話しあわれたことを踏まえた上で、玄田さんと小杉さんがJILPTの協力を得ながら、「親や家族がニート問題を考えるときの具体的なヒントを編集したもの」とのこと。

そう、この本はニート問題を他人事として評論する本ではなく、「目の前にいる」ニートの子とどう関わっていくのか、という、言わば「自分ごと」として、身近にニートがいない人は「自分が親だったら、支援者だったらどうする」と考えながら読んでほしい本だ。

本自体は新書で253ページの薄さだが、書かれている内容はとても濃く、多面的で、そして深刻だ。
特に若年層の問題に長く取り組んでいる実践者たちとの対談、インタビューは非常に示唆に満ち、現場の迫力にあふれている。少し長くなるが、印象に残った言葉を一部抜粋してみる。

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●宮本みち子(放送大学教養学部教授)
・雇用と家族は若者が自立するための重要な二大要件。公的社会と私的社会の両方で代変異が起こり、そのことが若者問題を発生させた。日本は欧米から20年遅れでそれが今来ている。
・社会(家庭/地域社会/学校)に接着剤的な機能がない。ちょっとつまづいた時に誰も手をさしのべてくれない。これは若者だけの問題ではなく中高年男性の自殺という形で既に顕在化してきているものが子どもや若者にまで襲いかかってきているのでは。
・日本の低学歴家庭は多くは放任。高学歴家庭は多くは過保護、過干渉、でも関係性は希薄。「親の人生は意味のあるものだ」と回答した青少年が15%しかいない。これは国際比較をするととんでもなく低い。
・イギリスのコネクションズ・サービスはすぐ導入でき、効果が期待できる施策ではないか。
・やりたいことをやっている状態というよりも、親に頼らないで自分でやれるようになること自体を誇らしいと思う、そういう教え方、育て方が必要。

●江川詔子(ジャーナリスト)
・大人にならなければ得られないものが、物だけでなく時間も情報もなくなっている。
・不満がないのは不幸だと思う。壁になれる大人の存在。
・父親が自分の経験や人間性を見せることが大事。
・父親は姿を現すところから始めなきゃ。何かしようと思わなくても、とりあえず近くにいればいい。すぐ結果を出そうとするのは逆効果。

●小島貴子(立教大学大学教育開発・支援センター コオプ・コーディネイター)
・ひきこもりの子にしても、ニートにしても、一番弱いのは人と接するきっかけがつかめないこと。何か言ったら否定されるとか、自分を受けいれてくれるはずがないという思い込みが過剰にある。でも34才以下にはそういう子がいて当たり前。
・16才(高校1年生)は転機としてとらえておかないと、26~27才で大きなキャリアショックが来る。
・保護者会でいつも話すこと「社会生活の前に家庭生活が大事。勉強していれば家の子ことはやらなくていいというのは絶対ありえない。」「高校生になると思春期になるから親と会話しないと思い込むのはやめた方がいい。」「子どもの語彙の少なさは圧倒的に問題。家庭の中で単語で話すことはしない。」
・ワークショップでは感じて、考えて、行動してもらう。
・欲望に対して勝手に押し付けるのは貧者の選択。賢者の選択とは、状況に合わせて選ぶ力を持つこと。
・なぜ17才や18才で「自分の人生はだめなんだ」と思わせなきゃならないのか。もしやりたいことがあるとしたら、実現するにはいくつかの方法があるという方法論を事例で話す。事例でいくのは、彼らは想像力が貧困だから。彼らの想像力を喚起するにはストーリー、ドラマでなければいけないと思ってる。そうすると、事例の中に自分を投影していく。
・親子のカウンセリングをしていると、母親の過干渉、過保護、父親不在というのがすごく大きい。
・親子の会話を聞いてると、ほとんど決めつけと指示。
・どっちも悪者ではない。子どもも親に対して悪いと思う必要はないし、親も自分を責めることはない。お互いが3年後、5年後に自立できて、気持ちよく生活するためには今何をすればいいのという視点で話をすることが必要。

●長洲正明(東京聖栄大学専任講師)
・ニート問題には、風邪薬を飲めば治るみたいな、そんなものはない。
雇用をどのように拡大するか、場と機会をどのようにつくり出すか、セットにして考えないと。
・相互不信から高校教師の教育力が低下している。
・企業でコスト意識がある人が、なぜ自分の子どもの教育に関してコスト意識がないのか。
・求められているのは、やたらと休まないことと、いること。この二つ。
・困っている親同志、子どもを交換したらいい。

●齋藤環(精神科医)
・キーワード化されることで功罪両面ある。今後は現場の燃え尽き、疲弊感が起きてくる可能性がある。現に「ひきこもり」は起きている。頻繁に需要を掘り起こしていかないとすぐ先細る。また感謝を期待すると燃え尽きるのも早い。
・ひきこもりにしてもニートにしても就労支援というのは彼らのプライドに配慮することを抜きにしては成り立たない。
・「理解したくない人は関心を持つな」と言わざるを得なくなった。ひきこもりやニートのことを知らずに独断的な批判をしている人は黙っていてくれ、関心を持つな、関心を持つならちゃんと理解してくれ、と。
・(親は)払う犠牲を最小限にした上で、何ができるかを考える。
・一般的に、一番本人のプライドを傷つけているのは父親。黙っていても自分を非難しているように感じる人はすごく多い。だから父親の方から口をきいて話しかけて、でも本人を傷つけないでほしい。
・母親は先回りせず、過干渉にならないで。
・ニートもひきこもりも予防はできない。
・中学生くらいの段階で、親は何歳まで面倒を見られるかということを契約として意識してほしい。親の子離れのためにも、どこで子離れするのかという里程表を双方で考えておくのは大事。
・親から子に伝えられるのは言葉の内容ではなくて姿勢。メッセージをいくら言っても伝わらないけど態度は伝わる。言葉と態度が乖離しない工夫を。
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ほとんどの方から「母親の過干渉、過保護、父親不在」というキーワードが出てきたのは印象的。と言うか、現代の家庭問題を語る時には必ず出てくる言葉。
しかし語っている人たちはそれを原因としてとらえながらも責めることはしない。過剰な責任意識が生まれる方がかえって邪魔になるという。つまり、どうやって親と子が別々の人間としてお互いを認識しながら生きていくか、ということ。
そして、ニートの問題は子どもだけの問題ではなく、教育だけの問題でもなく、社会構造などが関わって生まれているということ。だからこそ個の支援と行政の支援の両輪が必要になる。
小杉さんは「ニートというのは若者は職業社会に移行させるべき存在である、という基本的メッセージを含んだ言葉だと思います」と言う。あるがままの彼らを認めましょうという教育の側、個人の側の発想ではない、社会の側からの発想の言葉だと。

支援現場の人へのインタビューとして、下記の方々が掲載されている。こちらは抜粋しないが、ぜひご一読いただければ。実感のこもった言葉が満載。

・工藤啓(NPO「育て上げネット」理事長)
・井村良英(A’ワーク創造館事業部「体験!これから学級」講師)
・山本晶(元富山県教育委員会学校教育課児童生徒育成係主幹)
・川又直(共同生活寮「PEACEFUL HOUSE はぐれ雲」主宰)
・廣中邦充(浄土宗菩提山西居院代表)

玄田さんが以前から繰り返し言っているメッセージに、「大人が人生を充実させない限り、子どもは変われない」というものがある。「あなたが仕事で何をしてきたかということを語れる自分であろうとすることが、結局子どもを救うことになる」と。それは、講演会などでよく言われている、「何に対してささやかな誇りを持って仕事してきたのか、ぜひ言葉にしてほしい」ということ。そしてそれを言葉や態度で伝えてほしい、ということ。

巻末の玄田さんと小杉さんの対談での玄田さんの言葉「子どもがニートになったということは、大人が変わるきっかけを与えてくれたと考えた方がいいんじゃないかと思う。」を見て、「過去と他人は変えられないが、未来と自分は変えられる」という言葉を思い出した。希望は、そこにあるような気がする。

参考リンク:
・玄田有史さんのブログ「玄田ラヂオ」
・工藤啓さんのブログ「K's Note~ニートなひとびと~」
・小島貴子さんのブログ「Career Care キャリア徒然
ひきこもり情報-サポートの現場 第9回 川又直さん(NHK福祉ネットワーク)

子どもがニートになったなら
玄田 有史 小杉 礼子 労働政策研究・研修機構
日本放送出版協会 (2005/07)
おすすめ度の平均: 5
5 「ニート」に対する誤解を解き,問題の本質に迫る良書
5 きちんと向き合いなさい、と教えてくれる本

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