PLAY 「もとの黙阿弥~浅草七軒町界隈」
新橋演舞場にて「もとの黙阿弥」を観る。
井上ひさし・木村光一のコンビは、いや、井上ひさしのお芝居そのものが、もう何年ぶりだろう。
その昔新潟で高校生演劇部員だった頃、「新潟演劇鑑賞会」に入っていて、回ってくる芝居はたいがい四季とか青年座とか地人会とかだったのだが、その頃年に一度は必ず入っていたのが井上ひさしの作品だった。だが社会人になってからはもっぱら野田秀樹などがメインになって、ずいぶんごぶさたしてしまっていた。
そんな久し振りの井上芝居を、初めての新橋演舞場で観る。
驚いたのは客層。かなり年齢が高い。平均すると50代では、と思うくらい。
「井上ひさし・木村光一」だからなのか、それとも新橋演舞場というハコのためなのか。
作りは歌舞伎座とよく似ていて桟敷席あり花道あり。幕の内弁当もちゃんと売っている。休憩の取り方も歌舞伎とよく似ていた。
※以下少々内容に触れているため、未見の方はご注意を。
明治の浅草を舞台にしたお話は井上ひさしらしい言葉のキャッチボールと役者さん達の生き生きした動き、丁寧に作られた大道具などでとても楽しく観ることができた。
話を進める主要人物は筒井道隆、田畑智子、柳家花緑、横山めぐみの4人。そこにからむ(話を最初から最後まで見届ける)芝居小屋の二人に高柳淳子と村田雄浩。その他池畑慎之助など実力のある役者さん達の演技は安心して見ていられる。
筒井くんと田畑智子はNHK朝ドラ「私の青空」でも夫婦役をやっていたが、パンフレットによると、その時の二人は子どもはいるけど結婚はしないという間柄だったので、今回の稽古のほうがずっと一緒にいる時間が長いそうだ。そういうものなのか。テレビだしね。
それにしても筒井くんが自転車で登場した時のおかしさったら。のほほんとした育ちのいい青年役をやらせたら、この人の右に出る人はいないだろう。相変わらずアンコールの時はどこを見ていいのやら、と少々居心地の悪そうな表情をしていたし。田畑智子も清楚で愛らしく稟とした令嬢ぶりで好感が持てる。横山めぐみは舞台で初めて観たが、動きがダイナミックで華があり、なかなか舞台映えしていた。
初演は22年前。その時の主要キャストは片岡孝夫(現仁左衛門)、大竹しのぶ、古今亭志ん朝、水谷良重(現八重子)。パンフレットの写真が若いこと。柳家花緑は前回も落語家の先輩が演じた役をやったことになるが、とても楽しそうに軽やかに演じていた。役者としてもかなりいけるのでは。
劇中劇あり、役同志の入れ替わりありで、少々入れ子構造のお芝居だったが、しかしよく考えてみれば、パンフレットでいみじくも井上ひさしが書いているように、古典は「ナンノダレソレ、じつはナンノダレガシ」のパターンがほとんどなのだ。シェイクスピアしかり、モリエールしかり、さまざまな歌舞伎狂言しかり。そういう意味ではとてもオーソドックスな作りの中で見えてくる人間模様、生きるパワー、現実のつらさと哀しみ、そういったものを大きなエネルギーとともに伝えてくれる作品だった。
しかしあのラストには正直参った。まさかああいう終わり方をするなんて、夢にも思っていなかった。そして、ああ、井上ひさしという人はそういえばこうだった、ハリウッド映画みたいな四方丸くおさまってめでたしめでたし、なんてなるわけないんだった、すっかり忘れていたけれど、とくやしく思い返す。
この人は理不尽な現実への怒りを決して忘れないのだ。
久し振りにしっかり仕事をしている「大劇場」のお芝居を堪能させていただいた、そんな作品だった。
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