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2005/06/07

MOVIE 「ミリオンダラー・ベイビー」

エンドロールが流れる間中、涙が止まらない。泣きはらした目で映画館を出るのは何年ぶりか。
まちがいなくイーストウッドの代表作。ヒラリー・スワンク、モーガン・フリーマンのすばらしい演技。多くを語らないことで逆に多くを伝える演出、息をつかせぬ展開と胸にどっしり残る重み。オスカー主要部門独占も当然の結果と納得できる。
ハリウッド予測市場(Hollywood Stock Exchange(HSX))の参加者が圧倒的な差でこの作品と関係者に投資したのは無理もないことだった。

以下内容に触れているため、これから観る予定のある方はできれば読まれないことをお薦めする。この作品は先入観なしで観てほしいと強く思う。

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印象的だったやりとりに、試合前のロッカールームでヒラリー・スワンク演ずるマギーが「私を見捨てるの?」と言うのに対し、クリント・イーストウッド演ずるフランキーが「いや、決して見捨てない」と答える、というものがある。

そう、彼は見捨てなかった。彼女との約束を守った。

一言で言えば、孤独な魂二つと、それを見守る一人の元ボクサーにより語られる物語。

たった一人の家族である娘への手紙を何度出しても、宛先不明で戻ってくる、ひとりぼっちの男、フランキー。
トレーラーハウスで家族が暮らす、ヒマラヤ杉しかない貧乏な村から出てきて、ウエイトレスをしながら生計を立てるマギー。

マギーが貧乏から脱出するために唯一選べた手段、それがボクシング。
チャンピオンになるために必要だと思った名トレーナー・フランキーの指導を得るためにひたすらジムに通い続け、やがて元ボクサーでジムの共同経営者のエディ・スクラップ(モーガン・フリーマン)の助けをもらって、とうとうフランキーをトレーナーにすることに成功する。
31歳という遅すぎるスタートを努力でねじふせ、デビュー戦こそ他のマネージャーに預けられるが、彼女の良さを活かさない指導にぶち切れたフランキーが結局マネージャーを引き受け、その後は連戦連勝で勝ち進む。
イギリス遠征までできるようになった時、ジェイムズ・ジョイスに凝っていたフランキーがゲール語「モ・クシュラ」を刺繍したガウンを彼女にプレゼントし、以後観客は「モ・クシュラ」に熱狂的な応援を寄せる。
そして迎えた、待ち望んだタイトルマッチ。ここで勝てば「モ・クシュラ」の意味を教えると約束するフランキー。リングの上で彼女を待っていた運命は。

イーストウッドの残酷さはもはやお家芸と言える。
決して皆が安心する大団円など用意しない。
やっとつかみかけた幸福を、ほんの少しの行き違いの重なりで永遠に手放してしまう。
誰も悪くないのに。
ほしかったのは、ささやかな幸福だったのに。

フランキーのジムの壁に書かれている「タフなだけではボクサーにはなれない。」の言葉。
その“タフなだけ”だった女性がボクサーに果敢に挑戦し、栄光をつかもうとするのだが。
ラストで映される「タフなだけではボクサーにはなれない。」の文字が、なんと皮肉に映ることか。

マギーがファイトマネーで母親に家を買ってあげ、喜んでほめてもらえるとばかり思っていた彼女に思いがけない反応が返ってくる。そんな彼女を見るフランキーの痛々しい表情。
亡くなった父との思い出話で、昔飼っていた犬の話をするのだが、この犬の話がああいう風に繋がっていくとは、その時どうして予想できるだろう。
ラスベガスに試合に行くのにマギーが望んだ「行きは飛行機で帰りは車」。まさかあんなふうに実現するなんて。

いい娘と言われたい、それだけを願ってきたマギーが母を完全に見捨てた瞬間、マギーを守れ、マギーが頼れるのはフランキーただ一人となった。
彼女の思い、矜持、誇りを守れる、ただ一人の存在に。

「モ・クシュラ」の意味が最後の最後に明かされた瞬間、涙があふれて止まらなくなった。
あまりにも痛烈な一撃だった。

イーストウッドの映画は、音楽がいつも、とてもいい。抑え気味の、どこかあたたかさのある音の音楽は心情を静かに伝える。
たまらなく悲しく、やりきれなく、だけど完全にhopelessではないのではないかとほんの少し期待させるような。決して不幸ではなかった、と。きっと後悔はしていない、と。

彼は約束通り、彼女を見捨てなかった。
たとえ自分を守れなくても。二度と戻って来れなくても。

ここからはおまけ。
ラストで「本物のレモンパイを食べさせてくれる店」がもう一度映る時、フランキーは娘の居場所を本当は知っていて、それでもあえて宛先不明で手紙を出し続けていたのではないか、と思った。本当に届いてしまい、「もう二度と手紙をよこすな」と言われてしまったら出せなくなるかもしれない、それを恐れて。
そんなことをつい考えてしまう終わり方だった。

6/8追記:
モリタミホさんの「anyway, life goes on」内エントリ 『ミリオンダラー・ベイビー』で、「2人のジジィと若くも美人でもない女ボクサー。目の上は切れるは鼻の骨は折れるはの豪快なファイトシーン。だけど、心に残るのは、繊細で品のある映画だった、という印象。」と、非常にうまく書かれていた。まったくそういう映画だった。

関連リンク:
予測市場でみるアカデミー賞:8部門全て的中!
(H-Yamaguchi.net)
予測市場」のカテゴリで、HSXの投資の動きを追いかけ、『作品賞は、2月下旬のはじめごろにはまだ「The Aviator」が有利だったが、するすると「Million Dollar Baby」が出てきて逆転した。』という現実に近そうな動きを見せていた。今もう一度遡って見るとまた面白い。

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受信: 2005/06/11 14:11

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