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2005/05/26

バラとギムレット

昔、新潟で仕事をしていた会社は駅前の繁華街ど真ん中にあり、裏口を出ると目の前が飲み屋だらけという環境でした。
だいたいは気軽な居酒屋さんでしたが、ひょんなことからカウンターだけのバーがあることを知り、時折行くようになります。
テーブルチャージで2500円取られるようなお店なので、そうしょっちゅうは行けず、友人や先輩と一緒にたまに顔を出す程度でしたが、そこのマスターは女性客は一発で覚える方らしく、私はすぐに顔と名前を覚えられてしまうことに。

やがて婚約破棄という事件が我が身に起きたとき、身近な人たちにはその身近さゆえに話題としてとりあげることができず、でも苦しくて苦しくて誰かに話したい、と思った時、ふと例の店を思い出し、開店直後の18時に一人で足を運んでみました。
早い時間に行けば他のお客様もあまりいないので、身の上話もしやすいし、20時にヘルプの女性が入るまではマスター一人でお店をやっていることを知っていたからです。

案の定お店にはマスターだけ。まあるい氷をアイスピックで作りながら、私の話に耳を傾けてくれました。
「それは本当につらかったね。あなたのような女性を振るなんて、その男に見る目がなかっただけだよ。大丈夫、きっとあなたは幸せになれる女性だから。」
言ってほしかったなぐさめを的確に言ってもらい、はげまされ、ぼろぼろ泣きながらほんの少し気持ちが楽になっていったことを覚えています。

ちょうどその頃私の誕生日が近かったので、「お誕生日に何かほしいものをプレゼントしますよ。何がいいですか」とマスターが言ってくれました。と言われても、友人でもないバーのマスターにおねだりするのはさすがに気が引けます。いろいろ考えて、冗談半分で「じゃあ、私一度年の数だけバラの花をもらってみたかったんです。それ、お願いしてもいいですか?」と言ってみると、「いいですよ、わかりました。じゃあお誕生日の夜にまたいらしてくださいね」と。
当時はまだ今のように安くバラが買えるお店はなく、二十代後半でしたので、本当にその数だけ揃えるとかなりの金額になるだろうと思い、「まあお気持ち分だけで結構ですからね」とマスターには言って、その日はお店を出ました。当然のように、マスターはお代を請求しませんでした。

そして誕生日の夜。常連さんたちでそこそこいっぱいになっている時間にお店に顔を出し、スツールに腰掛け、まずは一杯。そのあと、マスターがごそごそと大きな包みを出してきました。
なんと、本当に、私の年齢の数の赤いバラの花束を渡されたのです。
その大きかったこと。きれいだったこと。香りのすばらしいこと。
私はただただ驚き、恐縮し、感謝しました。
苦しさに負けないでがんばれ、と励ましてくれたあの花束は、私のこれまでいただいたお誕生日プレゼントトップ3に今でも入る、うれしい贈り物でした。

そのマスターの得意なカクテルはギムレット
ジンをライムジュースとシェイクする、とてもシンプルなカクテルですが、そのシンプルさゆえに作る人によって味がまったく違ってしまうことを、他のお店でギムレットを飲んで私は思い知ることになります。
毎晩アイスピックで削って作るまあるい氷でグラスを冷やし、絞りたてのライムジュースとジンをシェイカーに入れてリズム良くシェイク。氷を捨ててグラスのふちぴったりに注がれる液体は何とも香り高くきらめいて見えます。
すっきりして、でもまろやかで、かすかな苦みがアクセントになって。
あれ以上のギムレットを私は未だに他のお店で飲んだことはありません。

水割り用のミネラルウォーターも、使うウイスキーに合わせて変えるこだわりよう。
あそこに行けば必ずおいしいお酒を飲ませてもらえる、と絶対の信頼をおける、数少ないお店です。

私が新潟を離れてからも変わらずあの場所で、まんまる顔のマスターは、まんまるの氷を削り続け、おいしいお酒を飲ませ続けてくれているはず。
もちろん、帰省の折りに顔を出すのがお約束。
「やあいらっしゃい、久しぶり」とにっこり笑顔で迎えてくれる、あの店へ。最高のギムレットを飲みに。

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