「小さな巨人」前田隆介 FOREVER
村上さんが紹介していたのは、ラグビーマガジン5月号の記事「Hello/Goodbye 人物往来2005」という引退選手を紹介する連載記事。毎年ある企画なのですが、その今年度版の第一回が、前田隆介くんだったのです。
あわてて本屋さんでラグマガを探したのですが、毎月25日発売の雑誌なので、10日過ぎには店頭からなくなってしまっており、4軒ほど探しましたが見つからず。やむを得ず、Webサイトからバックナンバーを取り寄せて、やっと読むことができました。
タイトルは「キャップは心の中に。」
一度でいい、ジャパン(日本代表)のメンバーとして桜のジャージを着て彼に試合に出てほしい、そういう思いを持ちながら叶わなかったファンとしては、このタイトルだけで泣きそうになってしまいます。
以前「近鉄・前田隆介くんについて」で書いた通り、大学時代からの彼のファンですが、ラグビーマガジンも読まなくなって久しい私は彼の引退のニュースを知ることもなく今まできてしまい、そこのところはまったく情けないです。とは言え、去年秩父宮の試合の後彼と話した時「(体が)かなりきついっすよー」と言っていたので、引退そのものは正直驚きませんでした。
ただ、スタッフとしても残らず、完全にラグビー部から身を引いていたのは少々意外。もっと伝えてほしいことがあったのに。本人としてはそれもやり尽くしたという判断なのでしょうか。
記事によると、数年来の「両膝軟骨の変形」に悩まされていて、担当医から「老人の膝だ」と言われたといいます。たしかに学生時代から膝を故障しやすかった記憶があり、体を張ったディフェンスは彼の膝に大きなダメージを与え続けたのでしょう。
記事を書いているのは藤島大さん。
さみしいな。またひとり、「選手のための選手」が芝の上を去る。
この出だしの一文で、ああ、やっぱり彼はこんな風に思われていたんだなあ、とうれしくなりました。
文章はこう続きます。
際立つタフネスと勝負根性。軽快な球さばき。そして大男を向こうに倒すタックル。そのタックルの機会をみずから求めるような防御の勤勉。「勇気」。そんな言葉では陳腐に思える。プロフィールのサイズをことさらに強調する気もしない。
ともかく見事なラグビー選手がいた。体格とは無関係に。
まさしく、彼のプレイは見ている側に熱い思いを起こしてくれるものでした。
トップリーグ陥落となったワールド戦に出れなかったことにも「命をかけた戦いにだましだまし出るわけにはいかない」って。村上さんも取り上げていたけど、まったく彼らしい、愚直なほどの真剣さ。
近鉄というチームについて「緻密さに欠けていた」と振り返り、自らがキャプテンだった4年間(1999年~2002年度)は「ディフェンスで粘れるチームにと言い続けたつもりです。でも僕の技量が足りなくて浸透しきれなかった」とも。肝心な時にザルになるディフェンス、試合の後半でキレてしまうメンタル面の弱さは、実際観戦していても胃が痛くなるものでした。長年染みついた関西ラグビー独特の空気は、彼をしても変えることができなかったんですね。
さぞかしくやしかったことでしょう。
現在は近鉄の流通・レジャー事業本部流通事業部に籍を置く彼は、フランチャイズの「成城石井」運営などに精を出しているといいます。追いかけるものが楕円球から別のものになっても、きっと彼の愚直なほどの真剣さは変わることはないと思います。にぱっ、と笑う笑顔で、きっと誰からも愛される「近鉄のにぃちゃん」でいてくれるんだろうな。
ともあれ、戦いを終えてフィールドの外に出た彼に言えるのはただ一言。
リュウスケ、ありがとう。お疲れさまでした。
2007/06/15追記:
参考リンク:
近鉄ラグビー部SH前田引退 4年間主将務めた「ミスター近鉄」(Sponichi annex:2005/01/21)
04年は慢性的な両膝痛を押して8試合に先発。第10節・神戸製鋼戦で右肩を脱臼し、残留がかかった2試合はベンチ外から見守った。前田は「両膝の痛みで力が入らず苦しい2年間でした。引退しても近鉄への愛着は変わらない」と話した。
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