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2005/03/26

長崎BREEZE

20歳の頃、5歳年上の恋人がいた。
一泊の出張で東京から新潟に来た彼と、偶然知り合い、一晩語り合ってそのまま恋に落ちた。
お互い別のパートナーがいたけれど、あまりうまくいっていなかったこともあいまって、遠距離恋愛が始まった。

つきあいが始まって間もなく、彼が長期出張で長崎に行くことになった。
最初はホテル住まい、そのあとマンションを借りることになる。
貧乏学生だった私はひたすら手紙を書いた。電話はコレクトコールを使うように言われて、忙しい彼が唯一つかまりやすい朝の時間帯に、公衆電話からかけて声を聞くのが何よりの楽しみ。
たまにもらえる手紙は何度も何度も読み返した。そらで言えるくらい、彼の言葉を自分の中に入れることで、離れていても一緒にいるのだと実感しようとした。

ちょうど春休みの時期になり、飛行機代を出すから長崎まで遊びに来ないか、と言われた。
大喜びで文字通り飛んで行った。長崎空港から市内までの移動に乗ったタクシーで「お客さん、東京からとね?」と運転手さんから話しかけられる言葉に、長崎を実感する。「・・・四海楼のちゃんぽんはもう食えんとですよ」いろいろ話していたのだが、その言葉だけを妙に覚えている。
父と同じアクセント、父と同じ言葉。
長崎出身の父を持つ私の、初めての長崎訪問がその時だった。

彼は昼間は仕事なので、私は一人で街をあちこち歩いた。
当時さだまさしファンだった私には、長崎はぶらぶらするだけで充分魅力的な街だった。
地名のひとつひとつが、初めてなのになつかしく、やっとここに来れたんだ、という喜びで胸がいっぱいになる。

さだまさしがソロになる前活動していたグループであるグレープの「紫陽花の詩」という曲がある。
本人曰く、「ただ街を歩くだけの歌」なのだが、しみじみとしてとてもいい曲だ。その曲に出てくる地名を辿って、市電に乗り、また歩いて回った。
蛍茶屋から鳴滝に行き、思案橋から眼鏡橋、賑橋。出島。南山手。お諏訪さん。
初春の長崎はやさしいそよ風が吹いていた。
先は見えないけど、その瞬間、私はとても幸せだった。好きなひとと同じ空の下にいる幸せを、一人でかみしめていた。

それから半年以上が過ぎ、ちいさな行き違いなどが重なって、付き合い始めてほぼ1年たった頃、遠距離恋愛は終わり、他の女性のもとに彼は行ってしまった。理由は探せばいろいろあるのだろうけど、結局私が自分を好きになれなかったことが大きかったと今は思う。
苦しかった。何をしても忘れられなかった。自分の何がいけなかったのか、どうすればよかったのか、そればかりを日々考えつづけて、疲れ果てていた。人生で唯一「自殺」を考えたのもその時だった。

ちょうどその頃発売されたさだまさしの「自分症候群」というアルバムの中に「長崎BREEZE」という曲がある。
その歌詞の一節がその時の心に響いた。

来ると信じた人を待つなら つらくないわ

今離れていても、きっとまた戻ってくる。だから待つ。待ちたいから、待つ。それならつらくない。
長崎で過ごした短い時間の幸福感と、あの時のやさしいBREEZEを思い出しながら。

冷静に考えれば全く根拠のない、妄想に近い考えだが、それがその時の私を支えてくれた。

さらに1年後彼は私の後の彼女と婚約し、そしてその婚約解消の後、結局全く知らない女性と結婚した。
来ると信じた人は結局来なかったけど、それでもあの日のささやかな幸福はけっして消えない。

3月になり陽差しが春めいてやわらかくなると、いつも思い出す、あの長崎の風。

自分症候群 プライス・ダウン・リイシュー盤
さだまさし 渡辺俊幸
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コメント

くりおねさん
こちらのエントリーを読んでいるうちに、自分の過去と重なって不覚にも涙が、、、。
でもこういう切ない話、ごめんなさい、私大好きなんです。_0_
あー 映画『エターナル・サンシャイン』が観たくなった。

投稿: fumi_o | 2005/03/27 19:48

>fumi_oさん
コメントをありがとうございます。
季節の変わり目は感傷的になりやすく、つい思い出話を書いてしまいました。
「エターナル・サンシャイン」私も見たいなあと思っています。

投稿: くりおね | 2005/04/01 22:02

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