BOOK 「大きな森の小さな家」シリーズ ローラ・インガルス・ワイルダー
子どもの頃からのザ・フェイバリット・ブックをひとつあげろと言われたら、迷わず「大きな森の小さな家」シリーズ、と答えるだろう。(正確にはシリーズなので「一種類」ということになるのだろうが、まあ大きなくくりということで。)
小学生の時に図書館で初めて手に取って読んでから、ずっと好きで好きで好きで、今まできた。
TVシリーズの「大草原の小さな家」は、原作は同じだがかなりオリジナルのストーリーになっているので、あちらのことは一旦忘れて続きをお読みいただければ。
初めて読んだのは「農場の少年」。当時出版されていた福音館書店のシリーズ5冊のうち、その図書館にはこれしか残っていなかった。理由はそのうちすぐにわかる。この本だけ、シリーズの主人公ローラではなく、夫のアルマンゾの家族を描いている、つまり「大きな森」シリーズとしてはサイドストーリー的な存在だったのだ。実際、第一作の「大きな森の小さな家」を借りられるまでかなりの時間を要した記憶がある。(当時は今のような予約制度なんかなかったから、早い者勝ちというわけで、とろい私はなかなか読めなかった。)
残り物ではあったけれど、そこに描かれているアメリカの農場の四季の生活は、小学生の心をとらえるのに充分だった。
牛や馬と共存して暮らすこと、北米の冬の厳しさ、農作物の仕込みと収穫、保存食(ハム、チーズ、バター等)の作り方、学校での勉強、感謝祭や独立記念日などのイベント、そして数多く出てくる魅惑的な、名前を聞いたこともない料理の数々。ブルーベリー、ラズベリー、そんな未知の果物たち。
ローラが主人公の話も同じ魅力に満ちあふれている。加えて、こちらは開拓者の話だから、いろんな場所へ移り住んでいく。大きな森から大草原、プラム・クリーク、そしてシルバー・レイク。
ガース・ウィリアムズのイラストで飾られた、少し厚い表紙を抱え、私はいつまでもアメリカ開拓時代のローラたちの暮らしの世界に入り込み、楽しめた。
その後、「シルバー・レイクの岸辺で」の続きのお話たちが岩波少年文庫で発刊され、図書館にも入ってきた。それを読み続けて、ローラがアルマンゾと結婚しローズが生まれるまでをたどることができた。
翻訳が恩地美保子さんから鈴木哲子さんに変わり、「とうさん、かあさん」から「父ちゃん、母ちゃん」になったのを始めとして田舎言葉は正直少々違和感があったりもしたが、イラストは変わらずガース・ウィリアムズだったので、「インガルス一家の物語」の雰囲気はそのまま、ローラが大人になっていく過程を楽しめる。
「長い冬」の中で、列車が止まって食料や石炭などの物資が町からなくなっても、干し草を縒り合わせて薪にし、小麦をコーヒーミルで挽いて黒パンを焼くという、生きていくための知恵に驚いたり、「この楽しき日々」での名刺やスカートに入れるフープなどの流行りものの描写を楽しんだり。作者が女性ということもあって、洋服や料理の描写が丁寧で、当時の生活記録としても秀逸だと思う。
何よりその丁寧な書かれ方は、石炭の香りや橇の鈴の音や吹雪の冷たさ、ムクドリのパイの馥郁とした味などを、まるで実際に感じているようにリアルに体験させてくれる。見たこともなく、食べたこともないものなのに、「あ、あれはローラの物語に書いてあった」と思いあたるものがその後どのくらい多かったことか。この本から得た知識は間違いなく私の血となり肉となっているのだ。
後に、この物語たちは娘のローズが編集者としてかなり関わっていて、すべてが事実を書いているわけではない、ということを知ったが、それを聞いても私にとってのこのお話の価値は下がることはない。アメリカの大きな変化の一時代を生きたファミリーの物語として、このお話以上のものを私は知らない。
今は福音館書店の5冊と岩波少年文庫の7冊すべてを手元に持っている。これを揃えた時、「大人になるって、いいな」としみじみ思った。
ローラとアルマンゾの終の住処となったロッキーリッジには、今もアルマンゾが作った家が残り、とうさんのヴァイオリンやローラの刺繍、結婚記念日のプレゼントのパン皿など思い出の品々が展示されているという。いつか、きっと、訪れてみたい場所だ。そこはきっと、初めて行ったのにまるで遠い昔から住んでいたふるさとのように感じることだろう。
福音館書店 (1972/07)
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