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2005/01/20

BOOK 「手術室の中へ」 弓削 孟文

ブログ巡りをしていてたまたま立ち寄った「松岡正剛の千夜一冊」で、「番外」と打たれた記事を見つけた。
題名は「退院報告と見舞御礼」。どうやら筆者は胃ガンの手術を行ったらしい。
読み進めていくと、この本の紹介がリンクされていた。もちろん「千夜一冊」でのコンテンツの一つだ。

手術室の中へ―麻酔科医からのレポート」(集英社新書) 弓削 孟文 (著)

「麻酔科医からのレポート」という題名に興味を覚え、さっそく購入して読んでみた。

筆者・弓削さんは広島大学医学部麻酔科・蘇生科教授。 「手術は唯一合法的に人の身体を傷つけることである」と筆者は言う。医療行為は大なり小なりすべて身体に対する「侵襲」だが、その中でも一番ダメージの大きい「侵襲」が手術であるという事実をまずはきちんと理解してほしい、と。「なんでもいいです」「おまかせします」ではなく、手術という手段のメリットとデメリット、リスクとそれへの対処について医者ときっちり話しあって進める共同作業としてとらえてほしい、ということなのだ。

全身麻酔は中枢神経をマヒさせるため、痛みを感じる部分だけでなく呼吸が止まり、人工呼吸をしているのだということを、恥ずかしながら初めて知った。
また麻酔医及び手術室担当看護士の人達がどういうことをしているのか、ふだんは知ることのない彼らの仕事の一端を知ることができた。術前、術中、術後に渡ってこんなにさまざまなケアがされているということを、私たちはもっと知っておくべきではないだろうか。手術というのはそのくらい重大な対処なのだ。

Amazonのレビューでは「大学の講義じゃないんだから、もっとエンターティンメント性を持たせてもいいのではないか」という内容もあったが、私はこのくらい丁寧に詳細に書いてあるほうが安心出来るし、かえって誠実さを感じる。

さて、またしても自分の話で恐縮だが、実は15年ほど前に手術を経験している。
病名は「汎発性腹膜炎」。慢性化した盲腸が破裂して中身が腹腔内に散り、炎症を起こしたのだ。
本人は盲腸だった自覚は全くなく、風邪か胃炎かと思い、かかっていた医者もすっかり見逃していた。しかし微熱と腹痛がおさまらず、そのうち食べることができなくなり、しまいには飲んだ水まで下してしまうありさまとなる。さすがにこれはおかしいと医者も思い、白血球数も相当増えていたため、大きな病院に紹介状を書いてもらった。
紹介先は内科医で、腎盂炎ではないか、という疑いだったが、私を診察した内科医は「これは違う」と外科医を呼び、呼ばれた外科医が私の腹部を触った瞬間「これは腹膜だ。ちょうど今日手術日だからこのまま手術だな」ということになり、本人も付き添ってきた母も予想しない展開となった。(主治医が言うには、あと半日手術が遅れていたら危なかったらしい。)

生まれて初めての入院、生まれて初めての全身麻酔での手術だったが、なにせ本人はあまりにお腹が痛くてエビのようにずっと丸まっている始末なので、どんな風に事が進んでいったのか記憶が少ない。手術前の各種処置も覚えておらず、記憶にあるのは手術室に入って背中側の腰に管を入れるのに「痛いと思うけど我慢してくださいねー」と言われたが、腹痛のほうがはるかにきつくて全然何ともなかったことと、「それではこれから眠くなります。一つずつ数字を数えて下さい」と言われて「いち、にい、さん」まで数えたとたんに意識がなくなったこと、手術が終わって自分のフルネームを呼ばれてはっきりくっきり「はい」と返事をしたこと、以上である。

術後で印象に残っているのは、痛み止めとしてモルヒネを定期的に注入されていた(術前に腰に入れた管はこのためだった)ため、その瞬間はうっとりふわふわしていたこと、気管に入れられた管が苦しくて早くはずしてほしかったこと、長い間の絶食でトイレに歩いていくのがものすごく苦行だったこと。しかも点滴をがんがんされるので、トイレが近いのだ。もう地獄。最後にはブドウ糖液の匂いを感じるだけで気持ち悪くなった。術後1週間以上たってようやく流動食が食べられるようになった時には、「胃に食べ物を入れるって、こんなに幸せなことなんだ」としみじみ実感。あんなに「おいしい」重湯とだし汁は後にも先にも食べたことがない。

そんな自分の体験と照らし合わせながら読むと、最近ではモルヒネはあまり使わず硬膜外麻酔でピンポイントに痛み止めを行っているなど、医療の進歩を感じる。また、あの時のことはこういう意味があったのか、と知ることができて、単純にうれしい。

ご自分や家族、知人が手術を受ける予定のある方は、ぜひ事前にお読みいただきたい。
ここまで手厚いケアが受けられる保証はないが、逆にこちらから「こういうことはどうなんですか」と医者に聞くことができるだろうし、もしかしたらそれがきっかけでよりよい手術&入院ができるかもしれない。

手術室の中へ―麻酔科医からのレポート
弓削 孟文
集英社 (2000/04)
売り上げランキング: 144,548
このページは在庫状況に応じて更新されますので、購入をお考えの方は定期的にご覧ください。

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コメント

昨年親が入院しました。その時に本人がどう感じていたかがくりおねさんのことばでちょっとわかったような感じがしています。本をぜひ読んでみたいと思っています。ご紹介、ありがとうございました。

投稿: やまざきさとみ | 2005/01/21 05:32

私は、肺がつぶれたときに、わきの下から管を入れられたことがあります。全身麻酔ではなかったので、医者が力任せに管をねじ込む圧力とか、「こんなんでいいか」とつぶやいたこととか、はっきり覚えております。手術らしい手術でもなかったのですが、それだけでも私にとってはおおごとだったので、本格的な手術となるとたいへんなんだろうな、と思いました。

投稿: 山口 浩 | 2005/01/22 02:41

>やまざきさとみさん

コメントをありがとうございます。
親御さんの入院、大変でしたね。
私の経験は15年も前の話なので、今はもっと快適に入院生活を送れるのではないかと思いますが、何かのご参考になれば幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。

>山口 浩さん

肺がつぶれたことがあったなんて、それはまた苦しそうですね。局所麻酔だと手術の様子が意識できてしまうんで、それが悪影響を与えそうな方の場合は鎮静剤や睡眠薬で意識をなくすようにすることもある、と「手術室の中へ」に書いてありました。
「こんなんでいいか」なんて、、、聞きたくないなあ。

投稿: くりおね | 2005/01/22 22:29

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