BOOK 「セクシャルアビューズ」 山口遼子
「セクシャルアビューズ」とは、「性的虐待」のことである。
子供に対する虐待は大きく分けると四種類あり、「身体的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」そして「性的虐待」だ。
この中で一番見つかりにくいのが性的虐待。見た目の傷が残らなかったり、見えにくい場合が多く、何より虐待したその本人や配偶者、だれよりも虐待された子ども自身が黙っている場合が多いので、外からではわからないからだという。
その「性的虐待」について丁寧に取材して、わかりやすく書かれたのが「セクシャルアビューズ―家族に壊される子どもたち」(山口遼子著・朝日文庫)である。
この本では、その見えにくい、しかし実は予想以上に存在している性的虐待の被害者数名へのインタビューから始まり、これが決して特殊な環境下での特殊な事例でないこと、被害者には大きな心的外傷を残すこと、対処として子どもには“「NO」(断る)「GO」(逃げる)「TELL」(被害を伝える)”を教えるプログラム(CAP)があることなどが紹介される。そして最後には、被害者を「サバイバー」(生存者)と呼び、癒しと回復のプログラムを必要とすること、それらを提供しているところ(セルフ・ヘルプ<自助グループ>とオープンシステム)の紹介でしめくくられている。
専門家の興味深かった言葉を拾ってみる。
・円より子さん(弁護士・現参議院議員)
「近親姦が起こるかどうかは、要するに夫婦の問題なのです。夫婦が人間として対等に向き合っている家庭では、こういう問題は起こらないと思います。男性と女性が、相手に依存しあうことなく自立していれば、少なくとも子どもへ性愛が向かうということはありません」
・木下淳博さん(弁護士・「子どもの虐待防止センター」スーパーバイザー)
「間違いを起こす父親のタイプは、人格的に何らかの障害がある人が多いようです」
「人間としての基本的な訓練を、家庭でも学校でも、また社会に出てからも受けてこなかったのではないでしょうか。だから、セックスしたいといっても、ふつうなら親子やきょうだい間ではしないものですが、人間どうしの距離のとり方がわからないから、それが混乱しているのでしょう。日常生活はちゃんとできるし、仕事もこなす、自分のしたことを批判されれば反論もする。しかしどこかおかしい。そんな人が増えてきているような感じがします」
・斎藤学さん(精神科医・家族機能研究所所長)
「児童期性的虐待とは、ある年齢までの間に、当事者が成人ないし年上の他人(親や同胞を含む)にされた性的な行為で、当事者がその行為を強制されたもの、望まないもの、嫌悪感のわくこわいことと感じた場合をいう(後略)」※ある年齢とは、家族の中で起こった虐待の場合は、当事者が18歳未満、家族以外の人物から虐待を受けた場合は14歳未満となっている
「哺乳動物っていうのは、養育してくれる者に対しては、エロスが働かないようになっているんです。また、小さいとき一緒だった者に対しても、セックスの欲求が生じないようにできているのです」
「子どもは親の笑顔見たさに存在してるようなものです。親に完全に依存して生きているからこそ、親は子どもに安全な場所を与える義務がある。なのにその依存の対象が、 自分を性的におもちゃにしたら、子どもはどうしていいかわからなくなります」
性的虐待は、被害者が訴えても「被害者に原因がある」と決めつけられがちな特徴を持っているが、これらを読んでいただくと、そのようなことは決してないということがご理解いただけるだろう。
筆者は言う。
「すべての家庭が性的虐待の危険をはらんでいるというわけではない。しかし、こうした問題が表に表れている以上に実数が多く、しかも一見平和な家庭の中で行われているということは、もっと注目されなければならない。やすらぎを奪われ、見捨てられていく子どもたちが現実にいることをもっと理解する必要がある。」
また、家庭内で親の自覚なしに行われている(と子どもが感じていた)性的いやがらせにどんなものがあるか、というヒアリング結果も載っている。特に娘を持つ男親の方にはできれば一度目を通していただきたいと願う。
こういった虐待の存在に対して、私たちにできることは、まずはその存在を認識すること。子どもたちに身の守り方をCAPなどのプログラムで伝えること。そして、サバイバーに出会った時にこう言ってあげること。
「あなたは悪くなかった。悪いのは相手なのだ。あなたの人格はこのことによって、少しでも下がったりしない。あなたが卑下しなければ、決して他人から見下されるいわれはない。」
ここに紹介した以外にも、性的虐待を受けた子どもに具体的にどのような影響が出るのか、虐待する親から子どもを助ける方法など綿密な取材に裏付けられたどっしりした記事が多く載っている。読み進むのに時間がかかるかもしれない。受け入れがたく感じる部分もあるかもしれない。しかしこれは他の「虐待」と根はひとつなのだ。目を背けてはいられないことなのだと、まずは事実を受け入れていくことが、結果的に被害を受ける子どもたちを少しでも減らすために必要だと思う。
一番いけないのは「無関心」なのだから。
筆者はフリーライター。女性・夫婦問題、教育、育児などを中心に活躍中とのこと。
1994年に出版された単行本を文庫化し、情報部分がアップデートされている。
参考リンク(本書中で紹介されている機関の一部抜粋):
社会福祉法人 子どもの虐待防止センター
特定非営利活動法人 CAPセンター・JAPAN
東京フェミニストセラピィセンター
NPO法人 児童虐待防止協会(「子どもの虐待ホットライン」を運営)
朝日新聞社 (1999/11)
売り上げランキング: 32,747

目を背けることなく
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