« 「LOOSER」アンコール東京公演チケット、ゲット | トップページ | STAGE 「銕仙会10月定期公演」葵上ほか »

2004/10/17

LIVE 「ジョアン・ジルベルト ジャパンツアー 2004」

「ボサノバの神様」ジョアン・ジルベルト。
彼を初めて知ったのはおそらく高校生の時だったと思う。
軽音楽部に所属する友人から貸してもらった「ゲッツ/ジルベルト」。アルトサックスを吹く彼女のお目当てはサックスプレイヤーのスタン・ゲッツの方だったが、私はこの心地よい音楽は一体なんだろう、と、淡々と歌う歌手の方をすっかり好きになってしまった。
それがジョアン・ジルベルトの「ボサノバ」との出会い。

そして月日が過ぎ、私は「神様」のギターと歌を聴いている。この耳で。

生で聴けるなんて一生ありえないと思っていた人の歌を、こうやって聴けるなんて、生きててよかった、と心から思う瞬間。

10月11日、東京国際フォーラムホールA。ジョアン・ジルベルト日本公演の最終日。
私はそこにいた。

昨年開演が大幅に遅れたことや、途中フリーズしてしまったことなどを聞いていたので、何が起きても驚かないよう覚悟を決めて行く。幸いにも今年は開演時間にはちゃんと会場に到着していたようで、約25分ほどの遅れで済んだ。
またこれも事前に聞いていたが、ジョアンの希望で客席の空調を止めている。幸い涼しい日だったので、今のところ不都合はない。

やっと、一人で、ギターを持って登場。胸に手を置き、3回おじぎ。「コンバンワ、トーキョー」とささやき、演奏が始まった。

ああ、この声。このギター。
私はアルバムを全部持っているわけではないし、彼の活動を追いかけていたわけではない。
人生のほんの一時期ジョアンのボサノバと出会い、気に入っていたというだけの人間だ。
だけど、その私でさえも「ああ、本当にジョアンがここにいるんだ。本物なんだ。」と胸がいっぱいになってしまう。
地球の裏側からわざわざ日本まで来てくれたんだ。

ギターを弾き、歌う。時々照明効果が変わるくらいで、あとは淡々と歌が進んでいく。
昔の曲しか知らない私には聞き覚えのない曲ばかりだったが、どれもまぎれもない「ジョアンのボサノバ」であり、行ったことのないブラジルの風景が頭の中をよぎる。
心地よく、うっとりと、美しいギターとささやくような歌に身をゆだねながら、時間が過ぎていく。

そして、15曲目を終えたあたりで、例によって(?)ジョアンの動きが止まる。噂の「フリーズ」だ。
正確に時間は計らなかったが、おそらく20分はかかっていたと思う。
動かなくなっても続いていた会場の拍手がようやく途切れた頃、ジョアンは動きだした。
「Excuse me」と言い、そのあとポルトガル語で何かを言って、また何事もなかったように歌い始める。

そのあと数曲歌ってから、何かを英語で言って(「ギターの調子が狂ってる」というようなことだったように私には思えた)いったん袖に引っ込んだ。
少々すると戻り、また歌い始める。

コンサートが進むにつれ、少しずつ知っている曲が入り始める。
「Wave」「ワン・ノート・サンバ」「ソ・ダンソ・サンバ」。知っている曲だけに、実際聴くと感無量だ。
通算で30数曲歌い、「ディサフィナード」を6サイクルほど歌って、いったん終了。

しかしここからが長かった。
今年の東京公演は10月6日、7日、10日とやってきたようだが、ロビーに張られていた演奏曲目を見ると、演奏曲数が増えているようなのだ。7日は25曲、10日は33曲。11日はどうなるんだと思っていたら。
ジョアンは調子がよかったのか、名残惜しかったのか、とにかくずっと歌っている。
「イパネマの娘」を「ああ、やっと、本人の歌で生で聞けたんだ」と感動にひたりながら聴き、演奏が終わって立ち上がって去ろうとする彼を「イパネマで締めたのね」と思いながら見ていると、なんとまた椅子にことん、と腰を下ろし、演奏を始めたのだ。

・・・いいでしょう、ジョアン。こうなったらどこまでもつきあいましょう。
空調が止まって3時間以上たって少々汗ばんでいても。休憩なしで腰が痛くなってしまっていても。ずっと聴くぞ。

淡々と歌い続けて通算40数曲、約4時間。至福の時が終わる。
ジョアン・ジルベルトは、唯一無二の存在だったことをはっきりとかみしめ、ジョアンの声とギターの余韻を耳の中に残しながら、会場を後にした。

「ほぼ日刊イトイ新聞」の中で、私の好きなドラマー・沼澤尚が昨年のジョアンのライブについて文章を寄せていたことを、友人に教えてもらった。
その記事によると、あの「フリーズ」のあと去年言っていた言葉は 「ごめんなさい。あなたたちの真心が見えるものだから」という意味の言葉だったそうだ。 「ジョアン・ジルベルトが自分の思ってることを観客に言うなんて、そんな感謝の気持ちを込めるなんてことは、絶対にあり得なかったことだ」ということらしい。
私たちが聞いたあの言葉も、同じような意味だったのだろうか。そう思いたい。

※沼澤尚さんが行った去年の9月12日・東京国際フォーラムでのライブが「ジョアン・ジルベルト・イン・トーキョー 」としてCD化されている。

曲順表(ディスクガレージホームページより)
10月6日(月)
10月7日(火)
10月10日(日)
10月11日(月)

10/17追記:
今日放送されたJ-WAVE「JAL SAUDE! SAUDADE...」で、ライブCDから2曲オンエアされた模様。
ホームページの曲目リストに「ジョアン・ジルベルトの日本公演最終日(10月11日)は、何と3時間45分、45曲!さらに即興で、日本のファンに感謝する曲もワンフレーズ、歌ってくれました。」と書いてあったのを見て、思い出した。
アンコールの途中、突然「ジャパ~ン、ベル コラソ~ン、ジャパ~ン」というようなフレーズを歌ってくれたことを。
大昔NHKラジオ講座でかじったスペイン語の記憶では「ベル コラソン」は「beautiful heart」の意味だと思うので、ポルトガル語でも似たような意味ではないかと想像。
そんな風に歌ってくれたジョアンが、とても愛しく思えた夜だった。
ありがとう、ジョアン。

|

« 「LOOSER」アンコール東京公演チケット、ゲット | トップページ | STAGE 「銕仙会10月定期公演」葵上ほか »

音楽」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: LIVE 「ジョアン・ジルベルト ジャパンツアー 2004」:

« 「LOOSER」アンコール東京公演チケット、ゲット | トップページ | STAGE 「銕仙会10月定期公演」葵上ほか »