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2004/09/11

MOVIE 「誰も知らない Nobody Knows」

夜、がらがらのモノレールに、向かい合わせて座る少年と少女。
足元には大きなピンクのスーツケース。少年は時折思い出したようにスーツケースを指でなぞる。まるでいとおしい物が中に入っているように。やがて羽田に近づき、窓の外はオレンジや黄色の灯でいっぱいになる。

この冒頭のシーンが、まさかあんな風につながっていくのだとは。

「誰も知らない」。実際に東京で起きた事件をモチーフにして作られたこの作品。(ストーリーはこちら)

事件が報道された時は子供を置き去りにした母親への非難が集中したようだが、映画は子供たちが過ごしていく日常(それは「普通の子供」とは確かに行動範囲が限定された生活ではあるが)を、その中で動く感情や想いを、ささやかなふれあいから感じるものを、すこし距離をおいて淡々と表現していく。
誰かを責めるのでなく、必要以上にかばうのでもなく、生きているその事実を切り取って、目の前に出してくる。
一見寡黙に見えるその映像は、生き生きしたディテールの積み重ねで、実に多くのことを語りかけてきて、私たちの胸の中に彼らの「生」を残すのだ。

主人公の長男・明役の柳楽優弥の目。この「目」があったからこそ、この映画が成立するのだと思えるくらいの「意志」と「聡明さ」と「孤独」を湛えた目。
この映画は柳楽優弥の12歳から13歳の成長の記録でもある。背が伸び、顔が精悍になり、声変わりを経て、そして精神的な深みが増していく、貴重な一年の記録。

もしこの映画が「捨てられた子供」についての作品だとしたら、私は必ず見なくてはならない。そう思っていた。
なぜならば、私自身が「捨てられた子供」だったのだから。
正確に言えば両親が離婚した時、親権を父が取って引き取られ、にも関わらず父の仕事の関係で他人の家(飲食店)に1歳半から2年間ほど預けられただけのことなのだが、実母は「(私が)捨てられたとだけは思ってほしくない」と親戚に話していたと聞いた時、「捨てられた子供」というキーワードが皮肉にも私の中に刻み付けられた。

だけど、これは「捨てられた子供」についての映画ではない。いや、正確に言うと、「捨てた」という行為に主眼が置かれているのではなく、結果そこで生きていかざるを得なくなった「子供」を中心とした映画なのだと受け止めている。

確かに、置き去りにはされたかもしれない。都会のエアポケットの中で、程よい無関心の中で、彼らが生きていることはほとんど知られることなく日々が過ぎた。
でも、誰も知らなくても、彼らはよりそって生きてきた。
そして、ひそやかに彼らを支える大人たちもいた。
子供のずるさ。はみ出し者同士の共感。居場所ができた喜び。どうしても譲れないものと苦しさに負けてそれを曲げてしまうくやしさ。それは多くの人がどこかで持った「子供時代の感情」だったように感じる。

そんな子供たちだけの生活はいつかほころびて、ひとつの季節が終わってしまう。その区切りに向かうのが、実は冒頭のモノレールのシーンだった。
そこに重なるタテタカコさんの「宝石」という曲が、これ以上ないくらい情景を、主人公の想いを伝える。

氷のように枯れた瞳で 僕は大きくなっていく
だれもよせつけられない 異臭を放った宝石

何かに区切りをつけて、それでも未来に向かって生きていく。生きたい、そう願い、進んでいく。
長い階段を登るように、ぼくらの人生はまだまだ続く。
ラストシーンは私にそう語りかけているような、そんな気がした。

参考リンク:
誰も知らない(Nobody Knows)の絶望そして希望」(katolerのマーケティング言論)
東京・豊島区子供置き去り事件報道に関する抗議文(婚外子差別と闘う会)
#戸籍がないと就学できない・埋葬できないとというのは誤解であるとのこと

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コメント

くりおねさん、TBとコメントありがとうございました。
柳楽君の目は、本当に素晴らしかったですね。今後、どんな青年、役者として成長していくのか楽しみですね。
タテタカコさんというアーティストを知ることができたのもこの映画を見たことの収穫でした。タテさんのような人は、自分のペースで、今後も長野の飯田を拠点に音楽活動を地道にやっていかれるのだと思います。彼女みたいな人が注目され、チャンスが広がることはとても良いことだと思います。

投稿: katoler | 2004/09/14 10:52

katolerさん、コメントをありがとうございます。
タテさん、コンビニの店員役でも出演されてて、自然体な雰囲気がよかったですね。生で彼女の歌声を聞けたkatolerさんがうらやましいです。

投稿: くりおね | 2004/09/15 23:25

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