PLAY 「ママがわたしに言ったこと」
会場の照明が落ち、音楽が流れる中、やがて客席後ろの四つの扉から、白い衣装を来た女優たちが一人ずつ、ゆっくりと中央の円形舞台に向かって歩いていく。私の横を通りすぎたのは大竹しのぶ。彼女のまわりにはすでに物語の空間ができあがっていて、そのまま私たちは舞台の中へと連れて行かれる。
青山円形劇場で「ママがわたしに言ったこと」(原題:My mother said, I never should)を観てきた。
木内みどり、渡辺えり子、大竹しのぶ、富田靖子。この四人の女優が母と娘のテーマのお芝居をやる。
そう聞けば、チケットを買わないはずがない。
ドリス、マーガレット、ジャッキー、ロージー。
彼女たちはあろうことか、自分たちの「ママ」を殺そうと相談している。
紐で縛って線路沿いの穴のあいた場所へ連れていき、心臓に杭を打ち込む。それが彼女たちのプラン。
けれど、そのプランは決して成功することはない。
なぜなら本当は、ドリスはマーガレットの、マーガレットはジャッキーの、ジャッキーはロージーの「ママ」なのだから。
ストーリーを引っ張っていくのは、ジャッキー(大竹しのぶ)とロージー(富田靖子)母子の物語だが、そこには重低音のようにドリス(木内みどり)の存在が響き、鍵となるのは実はマーガレット(渡辺えり子)だったりする。
戦争などの時代背景の違い、恋愛観・人生観の違い。それらをちりばめながらも、彼女たち四人が言いたいことは
「ママ、このままの私を好きになって!このままの私を見て!他の何とも比べないで!他の何かに押し込めようとしないで!」
こんな叫びだったのではないか。
手の届きそうな距離で、女優たちが笑い、泣き、怒り、寂しがる様子が見れるのはなんて幸福なことなんだろう。
彼女たちは全力でママと娘を演じきっていた。
途中遺品の片づけのシーンでマーガレットが唐突に「あんた普段違うのにどうしていきなりテキパキしてるのよ」とつっこんだあたりから5分ほどはおそらくアドリブのやりとりなのだろう。かなり素に近い様子で、つっこみ漫才を見ているようだった。マクベス夫人のセリフをジャッキーが言い、「なんであんた知ってるのよ」と聞くマーガレットに「あたしやったもの。あなたは見に来なかったかもしれないけど」というやりとりには爆笑。
終了後、木内みどりは涙ぐんだままで、ハンカチで目をぬぐいながらの挨拶だった。大竹しのぶはいつものように、この世とあの世の真ん中にいるような少し呆けた表情。渡辺えり子はどっしり拍手を受け、富田靖子は満足げなキラキラした表情をしていた。
アンコールで引っ込もうとした木内みどりの靴のヒールが板の間に挟まって、足を取られて、靴を脱いで去って行ったのはご愛嬌。
芝居が終わってふと舞台上を眺めると、そこには丸い刺繍枠と、作りかけのクロスステッチ。刺繍針がずぶりと刺さり、糸が下まで張られている。その糸はへその緒のようにも見え、切りたくても切れない、なくして初めて気づく母と娘の絆のようにも見えた。
10月3日まで上演中。当日券あり(チケット情報はこちらをどうぞ)。
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