MOVIE 「ジョゼと虎と魚たち」
動物園で、虎を見る。
檻の直前まで迫ってくる虎。咆哮。
こちらには来ないとわかっていても、それでも一瞬たまらなく恐ろしく、思わず悲鳴を上げる。
そんな瞬間は、できれば一番安心できる人と一緒に持ちたい。
そう思うのはごく自然なことで、だけどそれを持てないかもしれないと一度は覚悟を決めた、それがジョゼという女の子。
原作(厳密に言うと原作を収録している田辺聖子の短編集)が大好きなので、映画化と聞いた時は正直とまどったが、キャスティングを確認し、予告ポスターのほのぼのした雰囲気で観ることを決心。
なぜ彼女が「覚悟を決めた」のか、おそらくその大きな理由は足が不自由なこと、そしてそれに伴って彼女にぶら下がっているさまざまな人生の困難。
原作ではむしろヒステリックにも感じる高飛車さを、池脇千鶴はどっしりと小気味よく演じている。
そして相手役の妻夫木くんのフツーの男の子ぶりが、この作品をぎりぎりのところで現実にとどまらせる。
そんなフツーの男の子に、ラスト近く、残酷なくらい正直なセリフを言わせる脚本に、降参した。
一言で言えば、とてもまっとうな恋物語。
きっと、誰もが一度は通りすぎて、体の中に引っかき傷を多少なりとも残している、そんな初めての本気の恋の物語。
食べて、おしゃべりして、抱き合って、「アンタのすることみんな好き」と思い合う、忘れられない時間たち。
映画のコピー通り、「忘れたい、いとおしい、忘れられない」。
田辺 聖子
角川書店 (1987/01)
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角川エンタテインメント (2004/08/06)
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おすすめ度の平均:
原作と拮抗する名作
今年100本以上観た映画の中で№1。
切ない
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3人との演技っぽくない自然体でよかった。めちゃ、リアルだよ〜。切ね〜。
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コメント
ボクカノへのトラックバックありがとうございました♪
はじめてのことで嬉しくてやってきたら、「ジョゼと虎と魚たち」の記事があったのでコメントさせていただこーかと。
まだ観てもいないし原作も読んでないのですが、あわあわとしたポスターやCMの雰囲気が気になってたのです。
シンプルでくっきりしたくりおねさんの記事を読んで、ますます惹かれました。
劇場上映は高いし面倒で行かれないので(笑)ビデオ化を待って絶対観るつもりです。
投稿: くじら | 2004/03/29 15:59
くじらさん、ご挨拶が遅くなってごめんなさい。
コメントをありがとうございました。
原作は映画のポスターの写真が使われています。文庫ですので、よろしかったらこの作品だけでも読んでやって下さいませ。
これが上映された時の予告編でやってた「きょうのできごと」何とか見たいと画策中です。ゆったり流れる時間を感じて、気持ちよさそうだったもので。
投稿: くりおね | 2004/04/07 23:47
なんか、トラバが2個行ってしまったみたいで失礼致しました。
実は、僕は先日、新宿のタワレコにDVD発売記念で犬童監督が来るっていうのに行ってきたんです。
他の作品の話とかいろいろ聞けて、おもしろかったです。
投稿: ウエダ | 2004/08/14 10:39
>ウエダさん
トラバ&コメントをありがとうございました。せっかくなのでこのままにさせていただきます。
犬童監督のトークショー(なのかな?)、いいですねぇ。次回作が楽しみな監督ですよね。
シネクイントで見たんですが、作中で出てくるジョゼのレシピカードなどが展示してあって、なかなか楽しめました。
投稿: くりおね | 2004/08/18 00:13
DVD発売を予約して、それで初めて見たのですが、ほんと、「普通のまっとうな純愛物語」なんですよね。ラストも含めて。
池脇千鶴さんは、やはり演技うまくて、安心して見ていられるし。
投稿: びといん | 2004/09/20 14:34
びといんさん、こんにちは。
トラックバックとコメントをありがとうございます。
そうなんですよ、「普通のまっとうな恋物語」というところがいいなあ、と思うんです。
池脇さんは本当にいい女優さんですよね。大阪弁もとても素敵で。
投稿: くりおね | 2004/09/20 21:30
くりおねさま
はじめまして。無断TBのお許しをありがとうございます。
どちらかというと、わたしは原作のラストのほうが冷たい余韻があっていいなあと思っています。ただ、映画は映画で、新井浩文さんと新屋英子さんの好演が光っていて好きです。
今後ともよろしくお願いします。
投稿: 畑仲哲雄 | 2004/09/23 14:58
>畑中哲雄さん
はじめまして。くりおねと申します。
トラックバックとコメントをありがとうございました。
そうですね、原作のラストの方が硬質で、余韻がありますね。私はどちらもそれなりに好きです。ジョゼのキャラクターの違いから生まれるものなのかもしれません。
こちらこそ今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
投稿: くりおね | 2004/09/26 14:45
はじめまして。マモルと申します。
TBさせて頂きました。よろしくお願いします。
いや、それにしても完璧なレビューです。
僕は胸が締め付けられるばかりで、
感想を上手くことばにすることが出来ませんでしたが、
ココには僕の言いたかったことが全て書かれていました。
原作を絶対に読もうと心に決めました。
投稿: マモル | 2004/11/22 21:40
>マモルさん
こんにちは、くりおねと申します。
トラックバックとコメントをありがとうございました。
おほめいただき、とてもうれしいです。原作含めて思い入れのある作品ですので。
記事を書いてから時間が経っているにも関わらず、こうして映画を見た方からコメントやトラックバックをいただくと、この映画は本当にいい作品なんだなあ、ととてもうれしくなります。
ぜひ原作もお読み下さい。また違う楽しみ方ができると思いますよ。
投稿: くりおね | 2004/11/24 23:09
クリオネさん、初めまして。
トラックバックをありがとうございました。
>>相手役の妻夫木くんのフツーの男の子ぶりが、この作品をぎりぎりのところで現実にとどまらせる。
ぎりぎりのところで・・本当に私も同感です。
>>一言で言えば、とてもまっとうな恋物語。
私も今はこの映画は何も特別な人の恋愛を描いたのではないと思っています。
また何年か後に見返すと、違った感想を持つだろう、そんな気がする映画でした。
投稿: あいり | 2005/01/04 17:50
>あいりさん
はじめまして、くりおねと申します。
こちらこそ、リンクもご挨拶もなしにいきなりトラックバックさせていただいたにもかかわらず、コメントとトラックバックをありがとうございました。
おっしゃる通り、特別じゃない、普通の恋を描いた作品として、とても胸をしめつけられるものがあって、だからこそ大好きな作品です。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
投稿: くりおね | 2005/01/06 22:44
ご挨拶が遅れて、すみません。
作品を見て興味をもち、検索で、こちらのサイトを知りました。そして、読んでると、うんと面白かったので、思わず先にTBさせていただきました。
ひょっとすると、終盤。「残酷なくらい正直なセリフを言わせる」展開が嫌味にならず、むしろ雰囲気だったのは「妻夫木くんならでは」だったのかもしれませんね。
これからも、よろしくお願いします
投稿: noho_hon | 2005/06/27 11:11
>noho_honさん
はじめまして、くりおねと申します。
コメント&トラックバックをありがとうございました。
おっしゃる通り、あの展開も、あの台詞も、他の役者さんではなく妻夫木くんだったから、観ているこちらもすんなり納得できたのかもしれません。「こうなるのも無理はないね」と。
ただただ美しく相手を思う「純愛」とやらにどこか嘘くささを感じる私としては、こちらの方がよほどリアルで好きです。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
投稿: くりおね | 2005/06/28 00:22
はじめまして、five55です。
TBありがとうございます。
この映画、最高にいいですよね。
マジで、大好きです。
以上。
投稿: five55 | 2005/08/30 22:07
>five55さん
こんにちは、くりおねと申します。
こちらこそ、トラックバックとコメントをいただき、ありがとうございました。
昨年公開の映画にもかかわらず、いまだに多くの方が感想を書いていらっしゃるこの作品は、きっとみなさんの記憶に残る、「最高な」作品なのだろうと思います。
投稿: くりおね | 2005/08/31 00:13